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別れ・想い人に懸けるもの(16/16)
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────……
「──山の神様は、ロマンチストな人だったのかもしれないね」
背中を向けて台所に立っている愛しい人が、そう呟いた。
「……え…?」
「はい、珈琲だよ。舌、火傷しないように気をつけてね」
「あ、あぁ…」
渡されたコップを受けとって頷くと、テーブルを挟んで向かい側の椅子に達希が腰掛けた。
「その……"ロマンチスト"とは…?」
「ロマンチックっていうか……んー、何て言えばいいのかな。 "死ぬ"の意味が、まさか"そういう事"なんだって、夢にも思わなかっただろ」
「…まぁな」
達希と接吻を交わし、眩い光に包まれ意識を手放した後。
次に目を覚まし瞼を上げた我の瞳に映ったのは、別の世ではなく見慣れた山の大木だった。
しかもとうに日が落ちて暗くなっている。
視線を落とすと、達希が目を閉じ横たわっていた為、そっとその頬に手を添えてみた。
……あたたかい…生きている…?
加えて、血色もよくなっている気がする。
一体どういうことだ……?
……しばらくして、己の体の異変に気がついた。
狐の耳が…尻尾がない。日が落ちたというのに、妖狐へと姿が変化していない。
それに、体が重い……思うように体が動いてくれない。
木の上に飛び乗るなど簡単なこと。だが、それが出来ない。息を吹いて蝋燭に火を付けることも。
──そして、最終的に一つの結論に達した。
これが、人間の体なのかもしれないと。
「白は"狐としての白"が死んで人間になって、俺は"体が悪かった俺"が死んでリセットされた。……癌はすっかり完治していたし」
「……」
「それってさ、"白の為に命を懸けることができる人……俺と、一生一緒に幸せに暮らせるように"って、山の神様がくれたプレゼントなんじゃないかな」
プレゼント…贈り物か。
窓から見える裏山をじっと見据える。
山の主よ……達希を救ってくださり、感謝する……。
「そういや今日、流れ星が見える日だね。山のてっぺんに登って見に行こう。……今年も、来年も、その先も」
「あぁ……約束しよう」
視線を棚に置かれている狐の面に移して眺める。
窓から差し込む、太陽の光。
そのあたたかい光に照らされた狐面は、白く光っていた。
(完)
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