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会社を出て不動産屋に急いでいた時、ぐっと腕を強く掴まれた。
痛みに思わず顔を歪め振り返ると彼がいた。
「会えて良かった…」
どうして心底ほっとした様な顔で、そんな事が言えるのだろう。
彼は僕の腕を引き、人気のない路地裏に入る。
「連絡もないし、心配していたんだぞ!」
僕はその手を振り払い、驚愕する彼の目を見つめる。
昨日あれだけ泣いたのに、まだ足りなかったのだろうか。
でも泣かない、今はまだ、泣かない。
「僕は、出て行ったんです」
「どういう、事だ?」
気付いていない、少なくても僕に関する全ての物はもうあの部屋にないのに。
僕は彼にとってその程度の存在だったのだと思い知らされた。
「僕の荷物はもうありません。もし残っている物があれば捨てて下さい」
「別れるのか…?」
「はい」
彼の顔がみるみる歪んで、そしてまた僕の腕を掴む。
「あの話か。そんなものが必要なのか?俺達は…」
いっそ嫌いになれたら、どんなに楽だろうか。
「僕達は男です。僕は男しか好きになれない人間です。でも好きな人とずっと傍にいたい、ほんの少しでも良いから僕を思って欲しい。そう思うことは間違っていますか?」
僕は弱り切った彼の心につけ込み、そして、彼は僕を利用したのだ。
分かっていたことだろう。
「二人でどこかに行きたかった。一緒に写真を撮りたかった。何でもない時でも触れて欲しかった。言葉が欲しかった…」
これ以上を望むのは我儘なのだろうか。
ゲイでない彼は僕を受け入れてくれた。
恋人という立場で傍にいさせてくれた。
今は、それを喜んでいた過去の僕を可哀想だとさえ思う。
「貴方の望む関係にはなれそうもないです。
ごめんなさい」
もう一度彼の手を振り払い、今度こそその場から去った。
彼は僕を追い駆けては来なかった。
段々と歩く速度が上がり、とうとう走り出す。
どこに行けばいいのだろう
僕の居場所は、もう無い
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