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さっき心底愉快そうな笑い声を立てたはずの彼は、急に真面目な顔をしてここに転がり込んできました。
この人は、黒くない....
何から何まで僕の知らないもので作られています。
ふと下を見ると、濡れた僕の脚が見えました。見えたはずでした。
でも僕自身も僕の知らないものでできているようです。
音が鳴ったのを境に別の世界に来たのかとも思いました。
それで、隣に座って咳き込む彼に訊いてみました。ここはどこですか。僕がいたところは無くなったのですか。
暫く酷い咳を繰り返していた青年は、何かを吐き出した後こちらを見やって小さく笑いました。
-ここがお前のいた処だ。
でも、黒くありません。
-黒いばかりな訳があるか。お前は昔から、この白い石灰塗りの部屋に入れられていたんだから。
じゃあ、あなたはなぜここに来たのですか。
-オレは敵から逃げてきた。ついでにお前も助けてやろうと思ってな。
それだけ言い切ると、彼は壁に背を預けてぐったりと両手を垂れました。
浅い呼吸を繰り返しながらしきりに誰かの名前を呼んでいます。マーリン、と。
僕はどうすることもできなかったので、全く違うものに彩られた空間を見回しました。
なるほどこれなら退屈もしないでしょう。壁の細かい凹凸や濡れた床が光るのを眺めているのは存外いい気分でした。
しかしこれを表すには『黒』以外の表現が必要ということに気がつき、僕はなんとなく1人で考え始めます。
青年の右の瞳の色と、彼が吐き出したものの色は少しですが似ています。
それから、僕の脚や腕の色は彼より少し明るいように見えました。
左の瞳はどうなっているのだろう、と思い立ち、名前を呼び何かを呟く青年の前へ回り込みました。左のは綺麗な色でした。金属の光沢に近い....きらきらした...。
こんなに美しいものを見て未だ自分で表すことができないのをますます悔しく思い、考えるより先に口が滑ってしまいました。
僕に黒でないものを教えてください。それを表す術も。こんな綺麗なものを伝えられないのは残念でたまらない。
青年の視線がこちらへ向けられた瞬間、轟と大きな音が響きました。隣で彼が頭を抱え呻き声を上げたのが辛うじて分かります。
-もう少し待ってくれ。もうじきここは暗くなるが、またこの穴から光が差して、それが薄れて暗闇に戻ったら一つ数えろ。壁に記してもいい。それが4つになるまでに必ずお前を迎えに来ると約束しよう。
その後はどうするのですか。ねぇ、色々なものを教えてください。僕は何も知らないみたいですから。
-なら、7つの空を見せてやる。オレが見てきた空だ。きっと退屈はしないだろうよ。勿論その言い方も教える。それでいいな。
はい...はい。きっと迎えに来てくださいね。待ってますから。
青年はこくりと頷くと、立ち上がり、向こう側へ身を躍らせました。
僕はそのとき、ただただ楽しみにしていました。7つの空を見ることを。
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