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ぶらぶらと揺れていた男性は鎖を手繰って枝の上に乗り上げ、何事もなかったように再び指示を出し始めました。
「靴裏に術式を仕込んでおいてな、ああやって移動するんだ」
確かに梯子なんかを使うよりは随分と早そうですが、胆力も相当なのでしょう。僕にはできそうにありません、と呟くと、「そうさな」と笑いを堪えるように短い応えがありました。
「.....また笑いましたね」
「お前が世間知らずなだけだ....はは」
「ほら、また笑う。何がそんなに面白いんです」
「どんどん饒舌になってきたもんだから滑稽で仕方ない」
何ですかそれ、と眉を寄せると、こっちを見たアーサーは盛大に噴き出し、ドリアードたちがぎょっとして振り向くのも気にせずひたすらカラカラと笑いました。
ようやくそれが収まると、彼はふと上を見上げました。
僕もつられてそっちを向くと、一面に白いモヤがかかっていました。よく見ると世界樹から光の粒子が昇っていて、白いものに吸い込まれているようです。
「あれが一つ目だ」
アーサーが掠れた声で言いました。初めて見る『空』は世界樹から生まれた“雲”とかいうやつに覆われています。
これはこれで美しいものだと思うのです。ドリアードたちも地面に座ってのんびり空を見ていて、今だけは彼らと親しい仲であるような不思議な感覚を覚えました。
そんな幻想に浸りすぎて、この時の僕は気付きもしませんでした。
そっと口元を覆ったアーサーの手、その隙間から赤黒い液体が滲み出ていたことに。
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