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お駄賃こっきり
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「お願いします、一回だけでいいんです!!」
「…………はあ」
目前のイケメンは心底面倒臭そうな顔をしていた。
それはそうだ、仕方ないと思う。ほんと申し訳ない。男にナンパされたあげく抱いて下さいとか言われたんだもんな。ほんとごめんなさい。
だがしかし。
「分かってる、引くよな!でもそこをなんとか!考えてみてくんないかな……!!」
俺は引けない。
ここまで好みど真ん中のイケメンに出会ったのは初めてだったんだ。
「なんなんすか、ゲイの人ってこんな感じで相手探しするんすか」
「しないよ!基本身内で楽しんでるよ、たまにノンケ食っちゃったとかアホなことしてるやついるけどあっ俺も今そんなことしてるんだけど一応弁えてるわけで、だから判断は君にお任せするんだけどそこをなんとかお願いしたいんだけどすっげーー迷惑なのは分かってるゴメンネ」
「………………。」
「お礼はするっ」
「どんな?」
「いくらがいい?」
「金なんだ!!」
イケメンくん、初めて笑った。
ちょっと想像と違う、気取らない砕けた笑い方だけどそれもまた良いものだ。良いものだ……。
ナンパからのこんな話するために個室の焼肉屋入っちゃうくらいだからお金はちょっとならあるぞ。
とは言っても夢のような大金持ちじゃあない。
普通に就職して普通に働いてあんまり趣味なくてプレゼント送る相手もいなかっただけだ。
「ちなみにそちらの見積もりだと俺いくらなの?」
「ただヤッてくれたら30万」
「俺のチンコ30万?」
「君のチンコ30万」
安かったか、と思ったけどゆっくり瞬いてるその表情、少なくとも不満げではない。
けど、頷いてはくれそうもない。
「少なかった?」
「いや、相場分かんねーし……へーって思ってるだけで判断基準にもあんまりなってないっていうか」
「お、おう……」
「あと、ただやってくれたらって何?」
「えっと……オプション付けて頂けたらもっと積みます」
「オプション!!!!」
今度は爆笑しておられる。俺は今良いものを見ている。
「何させられんの!!」
「え……えっとね……、しゃぶらせてくれたら……3万」
「えっうそそういうパターン?」
「うえっ?」
「コスプレとかさせられんのかと思ってたよ。縛られたりとか」
「そんな恐れ多い」
「恐れ多いって……」
だって俺みたいなもんがこんなイケメンノンケ相手に抱いてくれ言ってんだぞ。
今お話してる時点でもう深く御礼申し上げたい次第。
ーーそのちょっと面白そうな笑顔なんてもう。拝んじゃうぞ。
「ーー他には?」
「え!!?」
「どんなオプションあんの」
「えあ、じゃあ……キス……1万、1回ね!1回ごとね!」
単語ごとに恐くて顔色をうかがってしまう。けどもその顔色が変わることはなかった。こえー……。
「あとは?」
「うっ、ちくび……さわってくれたらいちまん」
「……それオプションになり得るの?普通じゃね?」
「申し訳ないですお支払いします」
「うぅん……?他は……?」
「もしっ……もしだけど!解すの……やって頂けるなら5万……」
「いや、だからそれ……普通じゃ」
「だっだめだめホント最低限でいいの!30万はほんとチンコだから!チンコだけだから!!それ以外は面倒掛けないっ」
「…………。他は?」
「うっ……、あの……」
「なに」
「………」
すっげー機嫌悪いんだけどイケメン……。
なんで?嫌な思いさせそうなことは全部対価支払うって言ってるよね、俺。
怖いけど、まあ断られてもともとだから。
言えって言うなら言わないと。
この交渉に、俺が切れるカードなんぞ誠実さと金くらいしか無いのだ。
「もちろん嘘でいいんで、好きって言ってくれたら10万……」
「………………」
「あのっほんと棒読みでいい、棒読みでいいよ!いやもし演技してくれるんなら時価でもっとお支払いしますけど!でも多分棒読みでも時価だよ!?」
「大間のマグロじゃねーんだから……」
「うっ、すみません」
「………………」
しばし考え込んで、「あと無いの?」とイケメンは言った。
見とれていた俺はただぶんぶん頷く。
それからイケメン、低い声で「いいよ」と言った。
驚きすぎて叫び出す前の声も出ない俺に、「ただし!」と前置きが入る。
叫べなくなった俺は驚きのやり場がなくて軽く呼吸困難起こした。
「チンコ代だけでいい!!オプション代とかもらえねー」
「えっなんでっーー ーーあ、ほんとチンコだけでってことか!それは全然もちろんっ」
「ちーがーくーて!愛撫すんのとかされんのとか、解すのとかで貰うのはなんかやだよ、俺的には普通のセックスだよそれ」
「でも……」
「いや、無理と思ったらしないから。できそうならする。けど金はいらない」
「………………」
良い子なんだな、と思う。抱いてくれるとは言ってもらえたのになんだか少し悲しくなった。
「……聞いた感じさあ」
「ん?」
「あんたいわゆるーー『幸せなセックス』がしたいんだろ」
「ーーーーーー」
「なんでそれに金を払うんだよ」
「………………」
心底素直な、意味分かんねえとでもいいたげなその顔が、なにげに効くな。
「……金でも払わなきゃ手に入んねえからだろ」
「………………」
「それだけだよ」
別に顔なんてここまでストライクじゃなくたっていいよ。
けど今までに、心満たされるような経験を俺はしたことがなかった。
いつかできるかもって気持ちも萎えた。
ならこの僥倖に、もし金で応じてくれるんならって願うくらいは良いだろう。
「……言っちゃなんだけどさあ」
「……いいよ。俺一方的にお願いしてる立場だし」
「惨め」
「存じてます……」
だからその哀れなオイラを慰めちゃくれませんかね。あ、くれるんだよね。
「こんな顔も体もどタイプの人に抱かれたら、さぞ幸せだろなーって思ったから声かけたの。やっと報われそう、ありがと」
「………………」
「あとね、俺からいっこだけお願いがーーこれ全然そちらの不利益になる話じゃないから後出しで申し訳ないんだけどさ」
「なに?」
意識してすっと深く息を吸う。
「ーー終わったら、俺は浸りたいから泊まるけどさ。そっちは帰ってもらっていい?」
イケメンは、形のいい片眉を少し上げて「分かった」と言った。
そして、サービスだと言って俺の手を握ってくれた。
おわり
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