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買ったワインは、宅配便サービスで日本の新居に送って貰うことにした。
一瞬住所を迷ったけど、まあ結婚が取りやめになったっつったって、そんなすぐに退去もできねーしな。
マイホームなんか買わなくて良かったと、つくづく思う。
ユウもなんか買ってたみてーだけど、店を出る時には手ぶらだったから、どっかに同じく送ったんだろう。
それはフランスの家になんか、それとも日本にか、誰に何を送ったんか……ちょっと気にはなったけど、訊かなかった。
店を出たら、また訊かれた。
「これからどうするの?」
それは、この後も一緒にいてくれるってコトでいーんだろうか?
だったら、「次、どこ行こうか?」とか言えばいーのに。なんか距離置いてるっつーか……遠慮してんのかな?
「じゃあ、お前の行きてーとこに行こうぜ」
頭を撫でて、ふふっと笑ってやると、ユウがじわっと赤くなる。
「オレの、行きたい、とこ?」
たどたどしくオウム返しにされて、なんか可愛い。
「おー。どっかあんだろ? 元カレと行ったことねーような場所」
そう促すと、ユウは小さく息を呑んで、スゲー意外な場所を言った。
「デパート!」
「デパート?」
驚いて思わず訊き返すと、「わっ、ごめん」って謝られた。
「パリに来てそんなとこ、ダメ……だよね」
って、風船がしぼんでくみてーな顔されて、ダメなんて言うハズねーし。
「別にいーぜ。つか、お前と一緒ならどこでもいーよ」
そう言って頭をポンと撫でてやったら、ユウは上目使いにオレを見て、照れたように笑った。
バスか地下鉄で行くのかと思ったら、歩いても行けるらしい。
「この道をまっすぐで着くよ」
オペラ座の向かって左側の道を指差して、ユウがくいっとオレの袖を引く。
女にそういうコトされたら「ウゼェ」って払ってたとこだけど、ユウがやると可愛く思えんのが不思議だ。
オペラ座の前は、やっぱ観光客に溢れてた。
バスが多いからかな、気のせいか車も多いように見える。
歩道は普通に広いけど、ふわふわキョロキョロ歩いてると、路駐のバイクなんかにぶつかりそうで怖ぇ。
「気ィつけろよ」
さり気に肩を抱いて歩道側を歩かせると、「うわ」とユウが驚いたように言った。
横から、デカいつり目でじっと見られる。
ヤッてる時も思ってたけど、まつ毛が長ぇ。
そんな風にじっと見て来て――何かと思ったら、ユウは薄い唇をふっと緩めてこんなことを言った。
「キミ、モテるでしょ」
って。どういう意味だっつの。
「なんだ、それ?」
ふふっと笑って、ふわふわの猫毛をつまんだら、ユウもオレを見てふひっと笑った。
ホントマジ、なんだそれ。
衝動的に、抱き寄せてキスしたくなったけど……それは勿論、我慢した。
人通りの絶えねー道を、ユウの言う通り真っ直ぐ歩くと、やがてもっと大きな道に出た。
前方に銀色かな、よくワカンネーけどちょっと目立つ塔みてーなのが見えて、近付くとそれが、目的のデパートの屋根みてーだった。
「こっちだよー」
つって渡った横断歩道の先、入り口の枠が金だ。
高級デパートか?
けど、何か欲しいもんでもあんのかと思ったら、そういう訳でもねーようだ。
「誰かと来たかっただけ」
そんなことをぼそりと言う青年が、いじらしいっつーか、やっぱ何か可愛かった。
建物は3つに分かれてるらしい。
ユウがいつの間にか、日本語のフロアマップを取って来てくれてたけど、オレの方も特に買うもんはねぇ。
せっかくだからレストランの場所だけ軽く確認して、そっから後は、ユウにただついて回った。
デパートなんて入ったの久々かも知んねー。
母親の買い物にも、恋人の買い物にも、今までちゃんと付き合ったことねーし。
「デパートで買い物したい」とか、言われたことあったかな?
女の服とか靴とか、一緒に見たって仕方ねーし、頼まれても断ってばっかだった気がする。
そういや……結婚指輪選ぶのに、デパートがどうとか言われたっけ?
別に指輪のデザインなんかどれもそんな変わんねーし、こういうのは女がメインなんだから自分で好きなの選べ、っつって、任せっきりにしたと思うけど。
まあ、その指輪も互いに投げつけ合っちまったから、丸1日着けてたかどうかって感じだったな。
値段もよく覚えてねーけど、4万とか言ってたか?
それが1つでだったか、ペアでだったか、もうそんなことも覚えてなくて、自分でもちょっと呆れた。
その一方で、メンズ館の下から上まで、ユウと見て回るのは楽しかった。
男同士だからかな、スゲー楽だ。
それとも、ユウの性格のせい? それとも……笑い方が可愛いからか?
服やベルトを冷やかしながら、「オレはこっちが好きだ」とか「オレならこっちだ」とか、「上司がこういうの着てて」とか……そんなこと話して、笑い合った。
ずっと笑顔で喋り通しだったユウが、5階に来てふと立ち止まり、黙りこんだ。
「どうした?」
訊きながら視線の先を見ると、メンズ宝飾のコーナーみてーだ。
「なん、でも、ない……」
ユウはつっかえながらそう言って、フロアを先に行こうとする。
けど、なんでもねぇっつー顔には見えなかった。
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