アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
15
-
エッフェル塔への待ち合わせ場所は、あの噴水の前にした。
初めてユウを見かけた場所だ。
泣きながら写真をビリビリに破ってた場所。恐らく……元カレとの思い出の詰まった場所。
他のとこで、って言われるかと思ったけど、意外にもユウはあっさりと「いいよー」と笑ってた。
写真を破ったことで、その場所の思い出も、思いも、一緒に破っちまったんかな?
日没は夜の10時少し前だ。
エッフェル塔のライトアップもそれと一緒だから、待ち合わせもその頃。
だったら、ユウんちに行ってメシ食ってからでも良かったか? 一瞬そう思ったけど、ユウが思ったより嬉しそうだったから、変更しようとは言わなかった。
それに、ちょっと打算もあった。
ライトアップを見て、すぐにユウんちに移動したとしても、10時半は過ぎるだろう。
それからメシ食って……。
そしたら時間的に、「遅いから、泊まって行けば?」みてーな感じにならねーか?
「待ち合わせ、って。デートみたいだね」
昼間、別れ際に照れくさそうに言ったユウの顔を思い出す。
そんな試すようなセリフを言って、ちらっとオレの顔を伺って来んのが、ドキッとするくらい可愛かった。
「みたいじゃなくて、デートだろ?」
オレがそう言うと、ユウは真っ赤な顔で「そっか」って言ってたけど……あれ、期待していーんだよな?
ユウといったん解散した後、もっかいデパートをうろついて、のんびり歩きながらホテルに戻った。
もし仮に、ユウんちに泊まることになったとしても、明日チェックアウトする時に慌てねーですむよう、荷物をまとめておくことにする。
忘れ物はねーよな?
土産物必要な人間とその数とを、もっかい数え直してチェックして、買い漏れがねーかも確認した。
そわそわして落ち着かねーのは、帰り支度なんかしちまったせいか?
それとも、今夜の約束に緊張でもしてんのか?
パン屋で適当に買っといたパンを2つ、6時頃にホテルで食べた。
チキンとトマトのオープンサンドと、なんか中に甘いのが入った菓子パン。
ホテルに備え付けのポットでコーヒーを淹れながら、まだまだ明るい窓の外を眺める。
明日、ユウはどうするんだろう?
渡したチケットを、返されることはなかったけど。どうなんかな? 一緒に帰国してくれんの?
今夜、アイツの家に行った時に、全部明らかになるんだろうか? ユウの出した答え、とか。
待ち合わせ場所には早く着いた。
ソワソワしちまって、どうしようもなくて。
ユウがどんな顔でオレを待ってくれんのか、とか、ちょっと気にはなったけど――でも、わざと遅れてやろうとか、そんな気にはなれなかった。
やっぱ、途方に暮れたような顔、あの場所でさせたくねぇ。笑顔だけが見たかった。
エッフェル塔周辺は、初日と変わらず混んでいた。
みんなライトアップ見に来たんかな? こんな時間に帰ろうって連中はそういないみてーで、むしろ、人が増えてる感じ?
噴水の前でぼんやりと立って、向こうのエッフェル塔を眺める。
エッフェルブラウンの塔は、暗くなり始めた空の下、大きく黒々とそびえ立ってる。あれが、クリスマスツリーみてーにキラキラ輝くらしい。
それはどんくらいキレイなんかな――と、取り留めもねぇことを考えてたら。
「ねえ?」
オレを呼ぶ、柔らかな高い声が聞こえて来た。ユウだ。
「お待たせ」
目の前に立ち、にっこりと笑うユウ。風に乗って、ふわりと甘いニオイが香る。
「風呂、入って来たんか?」
オレの質問に、ユウはこくんとうなずいた。
「シャワーしかないけどね。あの、汗かいたから」
へぇ、と軽く返事したオレに、ユウはぼそりと続けた。
「荷物、まとめてた」
って。
荷物――?
それは一体?
思ったより期待してたみてーだ、ドキッとして言葉が出ねぇ。
バカみてーに口開けて「え?」って訊き返す。
けど、ユウが口を開くより先に、周りからどよめきが走った。暗かった空が、ふいに明るく照らされる。
ハッと目を向けるとバチバチと音が出そうな勢いで、エッフェル塔全体が明滅してた。
ああ、これが……と思うけど、それより隣にいる青年の気持ちの方が、気になった。
ライトに照らされて、漆黒の髪がキラッと輝く。
長い睫の下の、大きな目がオレを見てる。
薄い唇がふわりと笑んで、次の瞬間、ユウがオレに抱き付いて来た。
「タク君」
初めて呼ばれる名前。
ヤッてる最中だって、呼びもしなかったくせに。どんな不意打ちだっつの。
「おいっ」
驚きつつ、しっかり抱き止めると、耳元で囁かれたのは「ありがと」って言葉。
え、なんだ? 何が「ありがと?」
訊きたかったけどそんな場合じゃなかった。
エッフェル塔は点滅してて、ユウの腕がオレの首元に回ってて、甘い声で名前呼ばれて――きっと周りの誰も、オレ達のことなんか見てなく、て。
キスするのは、自然の流れだと思う。
派手なビカビカの点滅がやみ、夜のパリの街にそびえ立つ塔が、美しい朱金の光をまとうまで。
……オレ達は本物の恋人みてーに、抱き合い、キスを交わし、情熱的に舌を絡め合った。
そのまま即行でユウんちに行って、玄関入るなり、またキスをした。
勿論、キスだけで終わる訳ねぇし。
ユウに「こっち」って導かれるまま、ベッド行って押し倒した。
靴を脱ぐのも、忘れてた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
15 / 21