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オレ達を乗せたエールフランスは、予定通り14時半に成田に着いた。
ユウは「わぁ、ビジネスだ」って、乗ってる間中嬉しそうだった。機内食のメニューも何もかも違う、って。
「エールフランスはエコノミーでも美味いって有名だろ?」
不思議に思ってそう訊くと、どうも行きの飛行機は他社の安い便だったらしい。
「オレ、あんまりお金なくて」
って。
交通費、ユウが出したみてーな口ぶりだったんでビックリした。
「ホントはね、別れようって言われたんだよ」
ユウが、オレのやった指輪を触りながら言った。
「『キミの分まで、チケット買ってあげられない』って。だからおしまいだ、って。で、オレが自分で買うって言ったら、『一緒に買わないと、隣の席になれないよ』って。だから、オレ……」
「買ってやったのか? そいつの分まで」
オレが呆れたのが分かったんだろうか、ユウは一瞬答えに詰まって、言いにくそうに「うん……」つってうつむいた。
はあ、とため息が出る。
勿論オレが呆れてんのは、ユウに対してじゃねぇ。その詐欺まがいの元カレに、だ。
ホントに金があったんか無かったんか、最初からユウを騙すつもりだったんかそうじゃねーのか、ユウの話だけじゃ分かんねぇ。
けど、「別れよう」つったり「新婚旅行だ」つったり、一貫性がなくて怪しい。その場しのぎか、それとも騙しのテクニックか?
「もしかして、あのホテルもお前が払ったんか?」
そう訊くと、あっさり「うん」ってうなずかれて、ますます呆れた。
じゃあ、あのアパルトマンの家賃は……って、イヤな予感がしたけど訊かなかった。
人がいいのか、バカなのか……いや、恋に盲目だったせいなんか?
なんつーか、放っとけねぇ。
庇護欲をかき立てられて、守りたくて、衝動的にぐいっと肩を抱き寄せる。機内だとか、他人の目だとか、そんなことも気になんなかった。
「う、わ」
ユウは驚いたのかビクッと肩を揺らしたけど、その内腹をくくったんだろうか、ゆっくりオレに身を預けた。
「成田まで、新婚旅行だもん、ね」
ユウがオレの肩にもたれて、小さな声でぼそりと言った。
成田まで――。そりゃ、そういう約束だった、けど。
それはただの確認か? それとも、その先はねぇっていう牽制だろうか?
オレはユウが好きだけど、ユウにとってオレは多分、元カレのことを思い切る為に必要だった身代わりに過ぎねぇ。
薬指のペアリングを嬉しそうに触ってんの見ると、嫌われてはねーと思うけど。
フライト時間は11時間半。
日本が近付くにつれ、このまま終わらせたくねぇって思いが、募って募って仕方なかった。
ユウはこれからどうすんのかな? 駆け落ち同前に、男と一緒にフランス行っちまって……実家とは連絡したんだろうか?
一緒にいた3日間、結局こいつが家族のコト話すのを、一回も聞いたことはなかった。
行くあてあんのかな?
ケータイも持ってねーっつーから、メアドの交換もできねーし。仕方なく連絡先をメモ帳に書いて渡した。
「買ったらすぐに登録しろよ?」
そう言うと、「うん」って素直に笑ってた。
成田に着いた後、北ウイングの到着ロビーに降り立ってから、ユウは「はあーっ」と大きく深呼吸した。
「日本の匂いだね」
って。
「そうか?」
ははっと笑いながら、ゆっくりとロビーを先に進む。
足取りが重いのは、この先の約束がねーからだ。
こんな時に限って入国手続きもあっという間で、荷物の受け取りにも手間取らなかった。
「……ケータイさ、一緒に買いに行かねぇ?」
税関の手続きを済ませた後、思い切ってそう言ってみた。
ユウが一瞬真顔になって、見たコトねぇその表情に、ドキンと心臓が跳ね上がる。
新婚旅行ごっこは成田まで。それは勿論分かってるけど――なら、こっからは「新婚旅行」も「ごっこ」もやめて、恋人として付き合ってくんねーか?
そんな期待を込めて、ユウの顔をじっと見る、と。
「行っていいの、かな?」
ユウが真顔のまま、ためらうように視線を揺らしながら訊いた。
またドキンとした。
「いーから誘ってんだろ?」
答えながら、笑みが込み上げる。
なあ、もう、期待していーだろ? このまま終わらせたくねーって、お前も思ってくれてんだろ?
だったら――。
「今からでもいーぜ」
オレは、精一杯余裕のフリで、ユウに手を差し伸べた。
「うん……」
ユウは一つうなずいて、ギクシャクとオレの手に左手を重ねた。
その指には、オレの贈った黒と銀の指輪がハメられていて――ユウが真っ赤な顔で、ふっと笑った。
と、その時だった。
「タク!」
大声でオレの名前を呼びながら、女がいきなり抱き付いて来たのは。
「タク! タクミ! ごめんなさい!」
女が――オレの本来の結婚相手が、大声で喚きながらオレに縋りつく。
オレはぞっと鳥肌を立てながら、「どけ!」つって女を突き放す。けど女は諦めてくんねーで、泣き喚きながら、オレに縋った。
「私が悪かったの! ごめんなさい! 別れるって言わないで! 捨てないで!」
「……はぁ?」
言ってる意味が分かんねぇ。オレを振ったのはそっちのくせに。
ざわざわと、周りの視線が向けられる。
そういうの分かってて、利用するつもりで騒いでんだろう? ムカつく通り越して、ゾッとする。
「放せ! もう終わったんだよ!」
オレは大声で怒鳴りつけながら、ウソ泣きに違いねぇ女を両手で思い切り突き放した。
そして、右側に呆然と立ってるだろう、気弱な青年を振り向いた。
けど――。
「ユウ?」
彼はどこにもいなかった。
「何度も電話したしメールもしたのに! どうして何も返してくれなかったの?」
女の金切り声をうるさく邪魔に思いながら、オレは必死にあの、漆黒のふわふわ頭を探した。
でも、パリの人混みん中で簡単に見付けられたアイツの姿を、もっかい見付けることはできなかった。
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