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ルーブル美術館を出たものの、そのままあっさりとは帰りがたくて、オペラ通りをふらっと歩くことにした。
このまままっすぐ行けば、オペラ座の前に出るらしい。
つーことは、ホテルの近くだ。
特に予定もねーし、行くあてもねーし、ぶらっと歩くのもいいかも知んねー。どうせ、日暮れにまでは遠いしな。
歩き始めると、空腹なのに気付いた。そういや、もう昼過ぎだ。
あの写真青年の姿を探して、なんかそれどころじゃなかったみてーだ。
オレの知らねーとこで泣いてんじゃねーかとか、我ながらバカバカしい。知り合いにもなってねーのに。
「はは……」
乾いた笑いをもらしながら、6車線道路の歩道を足早に歩く。白壁の、似たようなアンティークのビルが、どこまでもずらっと並ぶ道。
そのビルの1階には、ところどころに看板やテント屋根がついてて、何かの店舗になってると分かる。
東京の繁華街みてーに派手派手しくなくてゴミゴミしてなくて、バカ高いビルもねーからスッキリと空が見える。なんかその辺が、都会のハズなのに観光地っぽいと思った。
昨日まではツアーで、セットになってるレストランでの食事だったから、1人でふらっと昼メシ食うのは初めてだ。
朝も夜もホテルで食ってるし、適当に食う店探すのも初めてになる。
ホテルのレストランみてーに日本語メニューまでは期待しねーけど、街のカフェのメニューでも、英語表記くらいは普通あるよな?
そう思いながら店を探して歩道沿いを歩いてると……脇道に逸れたとこに、日本語看板がちらっと見えた。
え、日本語? と足を止めて、ガイドブックを思い出す。
そういえばオペラ通りから脇道に逸れたところに、日本料理店が並んでる通りがあんだっけ?
その路地に入ると、確かにあちこちに日本語の看板が見える。
ラーメン屋、うどん屋に寿司……。「Restaurant Japonais」って書いてあんのは、普通の定食屋だろうか?
パリに来てまで日本食はな、と思いつつも、しょうゆのニオイには勝てねーで、気が付いたら木戸を開けてた。
「いらっしゃいませー」
日本語で言われて、ハッとする。
誘われるようにカウンターに座ると、水とメニューを素早く出されて、日本じゃ当たり前だけど嬉しかった。
カウンターには他に、常連客らしいおっさんが座ってて、日本語で店主と雑談してる。
「そういやユウ君、辞めたんだって?」
店主の質問に、おっさんは「いやいや」と手を振った。
「まだ辞めてねーよ。今、店番してるって。けど、もう辞める気になってんじゃないかねぇ」
「辞めてどうすんの?」
「さぁねぇ、帰国するんじゃないか? もう待っててもムダだって、ようやく納得できたんだろ」
オレは出されたトンカツを食べながら、おっさん同士の世間話を聞くともなしに聞いていた。
日本人店主が作るトンカツは、日本で食うのと同様、さっくりジューシーで美味かった。
店を出てから、また元のオペラ通りに戻ってまっすぐに歩いた。
前方にオペラ座が見えてくる。
周辺のビルと似たような、白い壁のアンティークな建物だ。屋根のエメラルドグリーンが遠目にもくっきり見える。
スタバを過ぎた辺りから、観光客が増えて来たみてーだ。バスも多い。
ついでだからと入り口の方にまで寄って見たけど、やっぱここにも、あのふわふわの黒髪にネコみてーな大きな目をした青年はいねぇようだった。
美術館の中も含めて、かなりの距離を歩いたせいか、スゲー疲れた。
ホテルのだだっ広いダブルベッドに仰向けに寝転がり、ため息をついて目を閉じる。
甘いモンが食いてぇな、と、何となく思った。
パリで甘いモン食うっつったら、手軽なのは何になんのかな?
ホテルに売店でもありゃ簡単なんだけど、そういう訳にもいかねーし、コンビニもねぇし。
チ□ルチョコ1個みてーなんでいーんだけど、どこ行きゃ買えるんだ?
パティスリーとか?
いや、いっそ昼間見かけたスタバでもいいか?
考えてる内に、マジなんか欲しくなってきて、しぶしぶベッドから起き上がる。
スイーツの店探して歩き回る元気はさすがにねーから、仕方ねぇ、ガイドブック引っ張り出して、スイーツ特集がねーかを探した。
オペラ座周辺で、って探すと数件あったけど……残念ながら、ここよりはルーブル美術館の方に近い。っつーか、これならスタバの方が近い。
マカロンで有名な店もあるみてーだ。
そういや昨日、ベルサイユ宮殿の売店の横にも、マカロンばっか並んでる店があったな。
あん時はスルーしちまったけど、そこで買っときゃよかったか――。
と、そこまで考えて思い出した。マカロン。
「あ、そういや……」
マカロンの引換券、貰ってたな。
帰りの飛行機のチケットを入れたままの、旅行社の紙袋を開けて覗く。
そこには思った通り、チケットやホテルのパンフとともに、マカロン引換券が入ってた。
チケットの裏に書いてる地図には、「ノートルダム・ディ・ロレット通り」とか書いてるけど――ノートルダム? 別のノートルダムか?
「……はー、面倒くせぇ」
疲れてんのに、読めねぇ地図なんか眺める元気もねぇっつの。
オレはチケットを放り出し、財布を持って部屋を出た。どっちみち今日は行けねーし。あれこれ考えんのもイヤだった。
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