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「へえ、コレが先生のお気に入り?」
「触んなセイメイ、っ!」
気だるい腰を動かして、ゆっくりと瞼を上げると覗きこむように私の顔を見ている知らない人の顔があった。
そもそも私は夏生以外の人を知らない、興味ない、この箱庭のようなマンションを最上階から2階分買い取っている夏生は私をここから出さないから必然的に人に会う機会なんて0になる。
衣擦れの音を耳に入れながら、肌を滑り落ちるシーツを気にせず起きあがる。
上半身を起こした所でセイメイと呼ばれていた男の人が銜えていた煙草をポトリと落とす。
「渚、渚ごめんね。渚…」
「?……なつ、お」
「うん。僕はここにいるよ、渚」
「だれ…?」
大きすぎるベッドの中心に丸まるように眠っていた私を抱きしめる夏生は、ベッドのスプリングがギシリと音を立てるのも気にならないのかぎゅうぎゅうと私を腕に閉じ込める。
「おいおい……マジかよ」
「出てけっつっただろ清明。」
「お前、これは…なんだ?つーか、そもそも誰だ?」
抱きしめて私を隠そうと、隠れるわけもないのに必死になる夏生は子どもっぽい独占欲をむき出しにしている。
私はやんわり夏生の腕を離すと寝起きで恥ずかしいという思考さえ回らないまま、呟くように名前を声に出す。
声は、高い方だと思う。
普通にしていても、オンナノコに聞こえる程度に。
声変わりはしていない。
そういう期間が私にはめぐってこなかった。
それを気にしていた時期もあったけれど、夏生はいつでも優しく私の耳元で「心配ないよ」とささやき続けた。
「一條、渚…です」
「お…おう。俺は宮本 清明(みやもとせいめい)だ。お前、いや……渚は…オトコ、だよな?」
「はい、ええ、一応」
私を抱きしめていた夏生の腕にぐっと力がこもる。
夏生は独占欲の塊だ。
きっと、私の勘が外れていなければ夏生以外が私の名前を読んだ事が気に入らなかったんだと思う。
それでも夏生の考える事は私になんか分かるはずない。
彼の世界は特別だ。
「オトコ…?!嘘だ、マジかよ!」
「もういいだろ清明、俺が仕事をしたくない理由。分かっただろ、とっとと消えろ」
「いや待てって。お前の編集者として見過ごせねぇんだよ」
ガシガシと乱暴に髪を混ぜる清明さんは、小さく溜息をつく。
きっと私を見た人はみんな一様に同じ反応をするに違いない。
黒くて長い髪は健康的な艶やかさを失わずに伸びていて、少し茶色い瞳は大きく昔はよく夏生に「まるで飴みたいにキラキラしてる、美味しそう」と言われた。
肌だって太陽にあたる機会がなかったから白いし、細い。
「夏生、お前…」
「もういいだろ!帰ってくれ!!」
声を荒げた夏生に、限界が近い事を知る。
半狂乱になる夏生はいつだって泣きながら私を抱きしめる。
私は夏生のモノだから。
夏生が清明さんに私の存在を打ち明けた事が既に信じられないことなのに、どこか傍観者的にそれを受け入れている自分がいた。
「清明さん、さようなら」
絞るように声を出すと、私を抱きしめていた夏生は泣きそうな顔をして私を見下ろす。
私の口から夏生以外の名前は出ない、そう信じていたんだろう。
「わたし……僕は、夏生の為にしか存在していません。だから、夏生が飽きるまではもう少しだけ、放っておいて貰えませんか?」
一人称を強制された事はない。
僕だって、私だって、なんとでも言えばいいのだろうけれど夏生は私がオンナノコである事をとろけた笑みで見つめる。
黒い髪だって、夏生が綺麗だねと言ったから伸ばしているだけ。
肌も、唇も、つま先だって、夏生が好きだと言うから造形を保っている。
「なぎ…なぎさ、渚。ナギサ、僕が君に飽きるなんて絶対にないのに、どうしてそんな事言うの。渚……ねえ、なぎさ」
「夏生、ごめんね」
抱きしめられながらも、しゃくりを上げる夏生に押されながらも、私はベッドに沈む身体を起こそうとは思わなかった。
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