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どれくらい歩いたのだろう。
動物のような、不思議な鳴き声が響く夜の狐道を、八代君は何度から現れた分かれ道を黙って進んで行く。
俺はというと、言いつけ通りに何かの気配や音がしても、振り向かず、視ない、という約束を守っていた。
「ここじゃ」
不意に、八代君が止まった。
「ここからまたこの世へと戻る」
「もう関西に着いたの?」
「いや、まだじゃ。せいぜいお主が住んでおった県を超えた辺りじゃろう」
「え、もう県境こえたの?」
早すぎないだろうか。流石、神様が使う道なだけある。
「津々浦々に繋がっておるとはいえ、何も直通しておる訳ではない。今回目指す場所は何度がこの道を駆使して行く必要がある」
「そうなんだ」
「ああ。…行くぞ」
狐道の山道を外れ、茂みをかき分けていく。
道の先に光が見えてきたかと思うと、また壁のようなものを通り過ぎたような感覚がした。
「!」
茂みから出ると、燦々(さんさん)と太陽が照る山道に出て、やっと抜けたんだと実感する。
「何をぼさっとしておる。次へ行くぞ」
「あ、うん!」
ぐいっと手を引かれ、次の狐道があるらしき所へとずんずんと歩いていく八代君の後を着いていく。
「ここじゃ。…約束は覚えておるな?」
「うん」
「なら良い」
狐道に入る前に必ずそんな会話をして、俺たちはどんどんと進んで行った。
そうして、この世側が夜になって、狐道側が昼になる頃。
「わあー凄い!見て見て、八代君。夜景が綺麗だよ!」
俺たちはとある宿に泊まっていた。
いきなり行って予約もなしに本当に泊まれるのか不安だったけれど、八代君が受付の人に何かを話すと急遽(きゅうきょ)この部屋を用意してくれたのだ。
何を話したのか気になって八代君に聞いてみたけれど「昔の伝手で、少しな」と答えるだけで、それ以上詳しくは教えてくれなかった。
「子供か、お主は。あのような人口灯の何がそんなに良い」
「だって、綺麗なものは綺麗だし」
まあ、何はともあれ、普段だったらこんな宿滅多に泊まれないだろうし。何より、ずっと歩いて疲れた体を温泉で癒したかった。
「あ、この部屋、温泉も付いてるんだ。一緒に入ろうよ、八代君」
「は?何故お主と入らねばならん」
「そう言わずに。日頃の感謝を込めて、背中流すから」
「いらん。入りたければ一人で入れば良かろう」
「…もしかして、八代君って」
「…何じゃ」
あまりの渋りっぷりに、とある考えに思い至る。
「お風呂嫌い?」
「………」
そう問いかけた時の八代君の顔を俺はずっと忘れないと思う。
「…そんな訳ないじゃろう。ワシは人間と違って風呂に入る必要はない。…ただ、それだけの事よ」
「八代君、俺まだ何にも言ってないよ」
まるで、必死に言い訳をしているように聞こえて、思わずふはっと笑ってしまう。
「…何を笑っておる」
「ごめ、だって…」
ここへ来て、初めて見せた八代君の可愛らしい一面。笑っちゃ失礼だけど、笑わずにはいられなかった。
「…馬鹿にしておるじゃろう」
「してないよ。あ。それなら、足だけでもどうかな」
「………」
「八代君も今日沢山歩いて疲れたでしょ?明日も歩くんだし、英気を養うって意味でさ」
「どうかな?」と提案すると、八代君は暫く思案してから、はあ、と一つ溜め息を零した。
「…足だけじゃからな」
「! うん!」
そう言って、部屋付きの露天風呂へと八代君が近付いた、その時だった。
「あ」
タオルを持っていこうとした俺の足が、桟(さん)に引っかかったのは。
ばっしゃーん、と豪快な水音が響き渡る。
「………」
沈黙がかえって怖い。
「…ご、ごめんね?」
怖いが、謝らないでいるともっと怖い事になりそうなので、ここは素直に謝っておこう。
「………こんの」
ポタリと、八代君のフードから水滴が落ちる。
「阿呆が!!!」
この後、数十分に渡ってお湯の中でこんこんと八代君からの説教を喰らったのだった。
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