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半月が夜空に浮かぶ夜景を眼前に、温泉に浸かる。なんて贅沢だろう。
が、今はそれらを充分に堪能する気にはなれない。
「ご、ごめんね。ほんとに」
「…もう良い。お主の間抜けさ加減は今に始まった事ではない」
「う…。ほんとに申し訳ない」
二人してびしょ濡れになった服の水を絞る。
「…こうなれば、もう脱いだ方が良いの」
「え」
ぼそりとそう言うと、八代君は服を脱ぎ始める。
「何をしておる。お主も早う脱がんか。風邪を引くぞ」
「あ、うん…!」
言われ、慌てて俺も水を吸って重くなった服を脱いでいく。
そうして、ちらりと見た八代君の体は
「…………」
「…何じゃ。ジロジロと見おって」
「あ、ご、ごめん。その…」
「ふん…この傷か」
「………」
あちらこちらにある古傷の数々。その中でもお腹にある大きな傷が一際目を引いた。
「…聞かんのか」
「…聞いてもいいの?」
「聞きたそうな眼をしておいて何を言うやら」
「だって……はっくしょん!」
ぶるりと、冷えた体を擦る。
「…ほれ、冷えたのじゃろう。早う湯に入れ」
「八代君は?」
どうするのかと仰ぎ見れば、八代君は呆れたように溜め息を零すと、静かにお湯に浸かった。
どうやら一緒に入ってくれるらしい。
それが嬉しくて、俺も後を追うようにお湯に浸かった。
「…この傷は、九重との戦いで出来たものじゃ」
そうして、暫く月夜の入浴を堪能していると、徐(おもむろ)に八代君がそう切り出した。
「…そっか」
そう返すのがやっとだった。
だって、八代君の体は細くて、俺よりも小さくて、華奢で。
だけど、神様の命とはいえ俺を守ってくれている。
その傷だらけの体に沢山の重石が乗っかっているような気がして、俺は何故か胸が苦しくなって、泣きそうになった。
「…そういえば、八代君ってイヤーカフ着けてたんだね」
涙が滲んだ眼をお湯をかけて誤魔化し、話題を変えようと先ほど気が付いた事を聞いてみた。
「いやーかふ?…ああ、この耳飾りの事か」
普段はフードを目深に被っていて見えなかったが、八代君の耳には銀色に光るイヤーカフが着けられていた。
話し方が古風なせいで、その今時な若者のようなアクセサリーを着けている事が不思議で、なんだか意外だった。
「これは…ああ、そうじゃった」
何かを思い出したのか、八代君は触れていた左のイヤーカフを外すと俺に手渡した。
「これはワシの力が込められた道具じゃ。お主も着けておれ。これがあれば多少離れていても中位の悪霊共から守る事が出来る上に、お主の居場所も分かる」
「へえ、優れものだね」
言われるままに、左耳にイヤーカフを着ける。
「どう?似合ってる?」
「知らん。…言うておくが、それはワシにしか外せん。それ以外となると、耳をそぎ落とすしかない」
「え、何それ怖っ!ていうかそれ、着けてから言わないでよっ」
「どのみち着けさせる予定じゃったのだから、変わらん」
「変わるよ!主に心情的に!」
この後、八代君が「暑い」と言ってお風呂から上がるまで、月夜の入浴を楽しんだのだった。
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