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翌日、宿の人が用意してくれた朝ご飯を食べていると、八代君が持っている(あの世製の)端末に連絡が入った。
席を外し、少し離れた所で通話をする八代君の後ろ姿を見ながら食事を続ける。
そして、約十五分後、俺が朝食を完食したとほぼ同時に八代君は戻ってきた。
「結構長かったけど…何の連絡だったの?」
ここへ来るまでにも八代君は三回ほど端末で誰かと連絡を取っていた。
その度に誰と連絡しているのか気にならなかった訳じゃないけれど、一分程で通話を終えるくらいには急いでいる様子だったので聞かなかった。いや、聞けなかった。
だから、漸く一息つけた今ならばと思い聞いたのだけど…
「………」
眉間に皺を寄せて難しい顔をしている八代君に再度「ど、どうしたの?」と問いかける。
「…面倒事じゃ」
「え?」
ややあって答えてくれた八代君の表情はやはり難しいもののままで。ちらりと薄紫色の視線が俺へと向けられたかと思えば、
「…先程、あの世より連絡が入った」
それは直ぐに外され、端末へと落とされた。
「何の連絡だったの?」
「…九重の式神が各地で複数体確認されておるそうじゃ」
「!?」
九重の式神って…
「あの気持ち悪い奴が…?」
これまでに二度ほど九重の式神を見たが、どちらも『気持ち悪い』見た目をしていた。
思い出すのも恐ろしいのに、あの式神が複数体も確認されている事に恐怖で身震いしてしまう。
「前回、奴はお主の浄化の力を受けて大きく疲弊したはずじゃ。じゃから、その隙にお主を創造神のもとへ連れていく手筈だったのじゃが…そうもいかなくなった」
「ど、どういう事?」
「今、各地で確認されている奴の式神は九体。そして、その内の二体がこの近くにおるそうじゃ」
「え!?この近くに!?」
二体も!?
驚く俺に、八代君は「そうじゃ」と頷くと立ち上がった。
「え、ど、どこ行くの?」
「決まっておろう。その式神の討伐に行く」
「え、今から?」
「当たり前じゃろう。奴の式神をどうにかせねば先へは進めん。それに、各地であの世の者たちが対処に当たっておる中、ワシだけ免除という訳にもいくまい。出来るだけ早く片付けるが…当面、ここに足止めになるじゃろう」
「………」
「? 何じゃ、急に静かになりおって」
「…覚えてないんだけど、九重ってこの前暫くは動けないくらいの大怪我したんだよね?」
「そうじゃが…それがどうした」
「そもそもなんだけど、九重は式神を使って何がしたいの?」
回復するまでの時間稼ぎ?それとも何か目的が?
「…何故そう思うた」
「え。だって、自分が戦えないくらい弱ってる時に創った式神が自分より強いとは思えないし。それなら、回復するまで自分の居場所を悟られないように時間稼ぎか撹乱(かくらん)のためにやってるって思うのが普通じゃないかな?」
「………」
八代君の薄紫色の眼が驚いたように見開かれる。え、そんなにおかしな事言ったかな?
「…お主の推理はあの世の見解とほぼ同じじゃ。じゃが、奴はそんな中途半端な事はせん。隠れるなら隠れるで完璧に居場所を悟られんようにするじゃろう。…九重はそういう奴じゃ」
「じゃあ、一体何のためにこんな事を?」
「…恐らく、お主をおびき出すためじゃろうな」
「え?」
俺を?
八代君の答えに、今度は俺が驚きに目を見開く。
だって、俺って自分で言うのも何だけどヘタレだよ?更に言えばビビりだよ?
そんな俺が式神がいっぱいいるこの状況で、のこのこ出ていくだろうか?いや、有り得ない。それだけは断言できる。
「おい」
「え、あ、はいっ」
うんうん考え込んでいたところに話しかけられ、反射的に返事をすると、八代君は懐(ふところ)から数枚の札(ふだ)を取り出した。
そして、何かを唱えると、札が薄紫色に光って猫の姿へと変わった。
「こやつらを貸してやる。それと、一応この一帯に結界を張っておく。これでワシがおらんでも悪霊は寄ってこんじゃろう」
「あ、ありがとう」
「言うておくが、ワシが戻ってくるまで建物から出るでないぞ。出れば…どうなるかは分かっておるな?」
「は、はい…!」
「ならばよい」
こくこくと俺が頷いたのを確認すると、八代君は出かけていったのだった。
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