アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
6
-
八代君が出かけた日から三日が経過した。
この三日、八代君は一度も宿に戻って来ていない。
猫たちが未だお札に戻っていないところを見るに、多分無事なのだろうが…
「大丈夫かなぁ…」
とは言え、もし俺が着いていったとしても出来る事など何もなかっただろう。足手纏いになるのが目に見えている。
それに、八代君はこれまで何度も九重と戦っている。そんな八代君に対して「心配している」などと無力な俺が言っても失礼な上に何様だと言われるだろう。
…しかし、それでも心配なものは心配なのだ。
確かに、八代君と出会ってまだそれ程経っていないし、付き合いも浅い。
けれど、そんな短い付き合いの俺を八代君はいつも守ってくれて。世話ばかりかけている現状が心苦しいと思うのは当然だろう。
現に、八代君は言っていた。九重の目的は俺をおびき出す事だと。
何故、九重が式神をたくさん出す事で俺をおびき出せると踏んだのかは分からないが、八代君には確信があるようだった。
「うーん…」
と、考え込みながら宿の廊下を歩いていたその時、曲がり角で誰かとぶつかってしまった。
「わっ!」
そんなに強くぶつかった訳ではなかったが、短く声をあげて尻餅をついてしまった相手に慌てて手を差し出す。
「ご、ごめんなさい!大丈夫ですか?」
「ああ、いえ、こちらこそ。ちゃんと前を見ていなかったので…」
男性は俺の手を取って立ち上がると、俺の足元にいた猫たちに視線を向けた。
「わ、可愛い猫さんたちですね!」
途端、ぱっと表情を輝かせた男性に、俺はもしかしてと尋ねた。
「猫、好きなんですか?」
「はい!大好きです!」
「!」
なんと!こんな所で同じ猫好きのお仲間に出会えるとは!
「俺もです!猫、可愛いですよね!」
「はい!もはや尊いです!」
「分かります!」
「分かってくれますか!」
「勿論ですよ!」
同じ熱量で返してくれる事にお互い感動したのか、気が付いた時には熱い握手を交わしていて。
これまた気が付いた時には、場所を変えて熱く猫への愛を男性と語り合っていた。
*****
男性と猫愛を熱く語り合った日の翌日、その男性と大浴場で再開したので改めて自己紹介をする事になった。
というのも、昨日はお互いに名乗りもせずに、ひたすらに猫への愛を語り合っていて。気が付いた時には、とっぷりと夜も更けてしまっていた。そのためお開きとなり、それぞれ宿泊している部屋へと戻ったのだが…
「いやー、あの後お名前を聞くのを忘れていた事を思い出しましてね。今日、また会えて良かったです」
「俺もです。語るのに夢中で忘れてました…」
お互いに笑い合い、改めて俺たちは自己紹介をし合った。
「僕は相田 聡(あいだ さとる)と言います」
「俺は久住 宗介です」
話を聞くと、相田さんは俺と同い年で、湯治のためにこの宿に一昨日から泊まっていて。昨日温泉街に散策に行こうかとしていた所で俺とぶつかったらしい。
「久住さんもお一人でここに?」
「いえ、友人と二人で来てます」
「ご友人とですか。仲が良いんですね」
「あはは…、まあ」
もしかしたら、そう思っているのは自分だけかもしれないけれど。思うのは自由だよな。
「ご友人の方は今お部屋ですか?」
「あ、いえ。出かけてるのでいないです」
「え?」
そう答えると、どういう意味だというように不思議そうな顔をする相田さんに、俺はどう言えば良いのかと考える。
「えーっと、実はここへは仕事も兼ねて来てるんです」
「ああ!そういう事でしたか」
良かった。納得してくれたらしい。
どうにか誤魔化せた事に心の中でほっとする。
その後、相田さんがそれ以上八代君の事を聞いてくる事はなく、とりとめのない事を話して、適当な所で俺たちは湯から上がった。
「そういえば、今日は猫さんたちは一緒ではないんですか?」
大浴場から出た所で、そう切り出した相田さんに俺は「部屋にいますよ」と答えた。
「良ければなんですが、また触らせてもらえませんか?」
「良いですよ」
「ありがとうございます!」
嬉しそうに笑う相田さんに、本当に猫が好きなんだなぁと改めて思う。
というのも、昨日意気投合した時にも、俺と一緒にいた猫たちのお眼鏡に適(かな)ったのか、猫たちは相田さんに触られるのを許していた。だから、きっと大丈夫だろう。
そう思い、相田さんと共に部屋に戻ると、出迎えてくれた猫たちの可愛さに揃ってノックアウトされたのは言うまでもない。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
77 / 87