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翌々日、相田さんに温泉街に行かないかと誘われたが、八代君から建物から出るなと厳命されているため、丁重にお断りした。
理由としては「猫たちを置いていけないから」という事にしたが、相田さんは「確かに」と納得してくれた。
そうして、迎えたその日の夜。八代君がやっと戻ってきた。
「だ、大丈夫?」
戻ってくるなり、八代君は敷いてあった布団に倒れ込んだ。大分(だいぶ)お疲れみたいだ。
「…何か、変わった事はあったか」
「え?」
このまま眠るのかと思い、傍を離れようとしたその時。唐突に八代君はそんな質問をした。
「いや…特に――」
無かったと言おうとして、ふと相田さんの事を思い出す。言った方が良いのかな?
言いかけて止まった俺を訝しく思ったのか、八代君が体を起こし、俺を薄紫色の瞳で見据える。
その眼は「さっさと吐け」と言っているようで。俺はその気迫に早々に白旗を上げた。
「実は――」
*****
「………」
八代君がいなかった間の事を全て報告し終えると、八代くんは少し考え込む素振りを見せた。
暫く沈黙が続き、正座した脚が痺れ始めた頃、漸く八代君は口を開いた。
「その者は今どこにおる」
「え?多分、部屋じゃないかな」
「どこの部屋じゃ」
「丁度この真下の部屋に泊まってるって言ってたけど…」
「行くぞ」
「え?」
突然立ち上がったかと思えば、すたすたと部屋を出て行こうとする八代君に思わず待ったをかける。
「ちょ、ちょっと待ってっ。行くってどこに?」
「決まっておろう。その相田という者の部屋にじゃ」
「早う来い」と今度こそ部屋を出ていく八代君の後を慌てて追いかける。
「今から行くの?」
時刻はもう午前0時を過ぎている。きっともう寝ているだろう時間にお邪魔するのはダメなんじゃないかと言ったが、八代君が足を止める事はなかった。
そうこうしているうちに、相田さんが泊まっている部屋の前に着き、八代君がガラリと部屋主の了承もなく襖を開ける。
そして、止める間もなく中へと入っていくと八代君は部屋の明かりを付けた。
「ちょ、八代君!勝手に入っちゃ……って、あれ?」
誰もいない室内に、思わずきょとんとしてしまう。
「え?あれ?相田さん?相田さーん!」
室内を隈なく探し回ったが、相田さんの姿はどこにも見当たらなかった。
こんな時間だというのに、まだ帰っていない事に一抹の不安が過ぎる。
「…やはりか」
ぼそりと落とされた八代君の言葉に、どういう事だと凝視する。
「…お主は部屋に戻っておれ」
「え…な、何で?」
「お主のためじゃ。悪い事は言わん。直ぐに戻れ。そして、ワシが戻るまで決して部屋から出るな」
その言葉に俺は違和感を覚えた。
前回は『建物から出るな』だった。けれど、今回は『部屋から出るな』という些細な違いが、どうしてもそれが引っかかった。
「…外に、何かあるの?」
「………」
「それは、俺が視ちゃいけないもの?」
「………」
八代君は答えなかった。けれど、だからこそ分かってしまった。
八代君は、何かを俺に見せたくないと思っている。だから、『建物』からではなく『部屋』から出るなと言ったのだ。
「俺は大丈夫だよ。だから、連れていって」
「…後悔する事になるぞ」
「そう、かもね。でも、八代君が俺のためって言うなら尚更俺も行かなきゃダメだと思うんだ」
「………来い」
「! うん、ありがとう」
「礼など要らん。…お人好しもここまでくれば大したものじゃの」
「はは、それ程でも」
「褒めておらんわ」
そんな会話をしながら、八代君はやって来た宿の受付で足を止めた。
「少し聞きたい。相田聡という客は戻って来ておるか」
「少々お待ちください。………いえ、まだ戻られていません」
「…そうか」
短く受付の女性にそう告げると、八代君は玄関へと向かう。
「俺、建物の外に出ても良いの?」
「ああ。じゃが、決してワシから離れるでないぞ」
「わ、分かった」
念を押すように言われ、頷くと、俺は八代君と一緒に外へと出た。
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