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春、出会い、そして…… エピローグ
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「君は、橘秋人君、だね」
夕暮れ時、やっと生徒会の仕事を片付けて、帰路についていた。
純には先に戻ってもらった。いくら前任の生徒会長とはいえ、今の代は自分たちが運営しなければならないのだ。純に頼りすぎてはいけない、という判断からだった。
けれど、声をかけられ、その男を見た時に、純に一緒にいてもらえば良かったと後悔がよぎった。
体格は、それほどがっしりしていない。むしろ、細い方だ。顔色は、気味が悪いほどに青白い。
声もしわがれて、まるで老人のようだ。見た目はそんなに老いぼれてはいない。
自分を見る目だけはらんらんと不気味に輝いている。
「誰だ、あんたは」
良くないモノの気配。それくらいはわかる。
秋人はつっけんどんに言い、その場を早く去ろうと考えた。
この男がどんな術を使ってくるか全くわからないまま、戦うのは避けたい。なによりも、体が逃げたがっている。
「そうだねぇ、天野だよ、って言えば、わかるかなぁ」
途切れ途切れの気色の悪い声。
聞こえた名に、ビクッと反応してしまう。
コイツが天野だと?こんな薄気味悪い男が?
「その反応は、僕を、知ってて、くれたのかなぁ?中条の、坊は、気に入らなかったが、やはり、君は、気に入った」
長い言葉を話せないのかと思うほどに途切れる言葉。
中条の坊とは、正のことか?と思いつつ、自分を気に入ったと言う男に、秋人は心底寒気がした。
「なんの用だ」
用がないなら自分に構うな、とでも言いたくなる。秋人の瞳は相手を切り裂くほど、鋭い。
「ククク、今は、自由に、したら良いよ。また、迎えに、来るからねぇ。その時は、一緒に、来てもらう。君が、来ないのなら、君の、大事な、子が、犠牲に、なるよ。石井章君、と言った、かなぁ?あぁ、僕が、君に、会いに、来たことも、中条の、坊には、言っちゃあ、ダメ、だよ?何を、しちゃうか、僕も、わからないからねぇ」
クククと含み笑いを続けながら、秋人に脅しをかけるように、否、脅しているのだこれは。
寒気に、指先が凍りだすような錯覚に陥った。
章と、一緒にいられなくなる。俺が、行かなければ、章が犠牲になってしまう。
正たちにも、相談してはいけないという内容。
頭の中が、まるで支配されたかのように、そのことがこびりつく。
「じゃあ、また、来るよ」
呆気なく、相手は去って行ったのに、秋人はその場を動けなくなっていた。
どうしたら良い?どうすれば良い?
答えのない問いが、秋人の中を埋め尽くしていた。
気が付くと、既に辺りは街灯がつき始める時間になっていた。
長く立ち尽くしていたからか、足がふらつく。
早く帰って、章に会いたい。章の無事を確認して、自分は普段どおりにすごさなければいけない。
章が自分のせいでなにかされてしまうかもしれない、という恐怖に体が強張る。
それでも、帰らなければ。遅くなり過ぎれば、心配をかけてしまう。
今追及をかわすだけの、精神的な余裕はないのだ。
自分があの男に言われたことを話してしまえば、章が……。
章さえ無事なら、自分はどうにでも、なににでも耐えてやる。
秋人は決心を固めて、ふらつく足を前に進めた。
影が、ポツリと彼の去って行く後を見ていた。
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