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君が消えた、夏 第三章 ①
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「秋人がいない!」
慌てて事務所に駆け込んできたのは、章と勇。
最近は三人で登下校していた。
多分、学校で待っていても秋人が現れず、探しに行ったけれど、見付からなかったのだろう。
章の探知能力でも秋人を見付けられないのは、相当なことだ。
「聖には?」
すぐに正が対応する。
「聖さんには、探しに行く前に保健室に寄って言いました。純さんも一緒にいたので、純さんも一緒に探してくれたんですけど」
勇が答える。
章と純の二人で、秋人の足跡を辿ったけれど、途中までしかわからなかったのだ。
「どこまで追えた?」
パソコンの前の秀が章に、詳しく話しを聞き出す。
地図を開いた秀に、章が頭を振る。
「学校の、校門まで、です」
章と純、二人がかりで、そこまでしか追えなかったのだ。
校門を出た先の、秋人の足跡は一切ない。だから、また学校内に戻って、探した。
保健室という、自由に使える場所があることが、その時は役に立った。
保健室で章と純が結界を広げ、秋人を探したけれど、どこにもいなかったのだ。
学校から、姿を消してしまった秋人。
学校の外への足跡は辿れない。
「聖さんに、先に帰って報告を、と言われて、二人で帰ってきました」
「聖さんも早くに仕事を切り上げて、戻ってくれるって」
章と勇の焦燥感。いきなりいなくなった秋人が、心配なのだろう。
それは、今事務所にいる人間全てがそうだ。
「秋人がいなくなったって?!」
慌てて事務所に飛び込んできたのは、太一だった。純から連絡を受けたのだろう。
「足跡が辿れない。章と純の二人がかりでも無理だった。そうなると、俺の情報網もあまり当てにはできないかもしれないが」
秀が太一に答え、それでもと、情報屋への依頼メールを作成している。
あまり頼りたくない人たちなのだが、そんなことを言っている場合でもない。二人組の情報屋は、片方が力を持った人間なのだ。
何か、自分たちは見落としをしていないか、と正は考える。
秋人が何も言わずにいなくなる理由。そんなものは、どう探したって見付からない。
ならば、秋人に対して何らかの、誰かからの、介入が起きた?
「天野か」
正は一つの結論を出す。
あの術者ならば、人を一人連れ去れるだけの力がある。
どうして秋人を標的にしたのかは、わからないが。
簡単に連れて行かれる秋人ではない。だが、あの男相手なら、今の秋人では対抗できない。
天野本人に会っている正だから、わかることである。
「天野って、勇君を狙ってる?」
章が正の呟きに反応した。
「待ってください。どうして、秋人さんなんですか?俺を狙っているんじゃ」
勇自身学校にいたのだ。
なのに、勇ではなく、秋人を連れ去った?
「何らかの、意図があるのでしょう。天野の考えは私にはわかりませんが」
正は静かに言葉を紡ぐ。
「秋人本人には、ここからいなくなる、理由がないでしょう。しかも、足跡を辿れなくするような、巧妙な力はないはずです。ならば、何者かの介入があったのでは、と考えました」
考えた先に、出て来たのが天野という術者。
今のところ、自分たちを敵害視しているのは、あの男くらいだ。
「秋人は、最近は、普通に笑っていたな」
秀が言葉を発した。
「いつからだった?秋人が章以外も受け入れて、皆で笑いあうなんて……」
単純に、秋人が変わったのだと思っていた。
でも、その転機は突然だったと今なら思える。
どうして、もっと秋人のことをしっかり見ていなかった?
誰もが心の中に、その言葉を浮き上がらせた。
「もっと前から、天野からの接触があったかもしれないってことか」
太一の呟き。
天野から接触を受け、それで秋人はきっと悩んでいたはずだ。
章にも言えず、誰にも言えず。
一人で、悩んでいたのか?秋人……。
「誰にも言えなかったのは、きっと秋人に天野からの呪縛がかけられていたからでしょう。このままでは終わらせません。大切な仲間、取り戻しますよ」
正が宣言した。
今は天野がどこに潜伏しているか、わからない。
秀は、情報屋への依頼書を書き換えた。天野義久という術者探しへと。
情報屋からは、「最優先で探す」と返信が来た。秀は「頼む」と短い文面を送って、自分なりの方法での探索を開始する。
このままで終わらせない。仲間を取り戻す。
全員がそう決めた。だから、動く。
何も言えずに、一人悩んでいた秋人の心を、わかってやれなかった後悔は、秋人を取り戻してからすれば良い。
今すべきことは、彼を探しだし、この場所へ取り戻すこと。
戻ってきた、聖と純にも説明が必要だろう。
正は亜希羅へと連絡を入れている。
亜希羅も秋人を仲間だと思う一人だ。
全員で、秋人を取り戻す。その為にやれることを、それぞれがやる。
今できることを。
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