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過ぎ去る、秋 第二章 ②
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携帯電話を、聖は見つめていた。
立名へ、連絡を怠ったことはなかった。
時間が許せば、メールではなく、電話もしていた。
一人、留学をした、立名。
どういう経緯で、留学を決意したのか、聖は聞いていたし、理解もしていた。
けれど、離れることになるとわかった時に、己の想いが爆発したように立名へ向いた。自分も同じだ、と笑ってくれた、あの時の立名の笑顔を、忘れたことはなかった。
だから、立名への日本で起こっていることの連絡は、聖が行っていた。
こればかりは、立名の兄である正に、譲りたくはなかったから。
別に、大した用事もなく、連絡しても、立名は咎めては来ないだろう。それは、わかってはいたが。
立名へ、連絡をする理由が、聖には欲しかったのかもしれない。
そうでなければ、面倒がる自分のことだ。連絡したい連絡したい、とだけ思って、文面が思い付かずにそのままになりかねないと、あの時思ったのだ。
だが、今回の事件が起きてから、メールの文面を考えるのが、難しくなってしまった。
なんと、書けば良い。
あの優しい立名を、泣かさないでいられるような、内容が、書けない。
村越勇について、連絡した時は、気が楽だった。
日本に帰った時、会えるのを楽しみにしてると、返事も来た。
けれど、今回のことは……。
秋人がいなくなって、しばらく経っているのに、聖はそのことを立名に知らせていない。
知らないままだったら、どうして教えてくれなかったのか、と詰られるのもわかっている。
それでも、文面が……。
下書きメールのままになっている、文面。
送信ボタンを押せば、それで良いはずなのだけれど。遠い場所にいる彼を、泣かせてしまうのではないかと思ったら、その送信ボタンを押すことが、できない。
そばにいられたら、立名を抱き締められるのに。
考えても、仕方ないことだと、わかっている。
そばにいないから、こうしてメールを送っているのだ。
「はぁ、情けない」
こんなにも、判断のできない人間だったか、自分は。
聖はそう思い、一度机に置いた携帯をもう一度手に取る。
すでに、真っ暗な画面になってしまっている携帯を、再度メールの画面にして。
下書きメールを、そのまま送信した。
ただ一言、伝えるのが遅くなった。とだけ付け加えて。
ピピピピピ
この時間に、電話が鳴るとは、思ってなかった。
「はい」
『聖さん!』
静かに出た聖に対して、電話の向こうの立名は慌てているようで。
あの内容を見れば、それは慌てるか。なんて思いながら。
「立名俺たちも、まだよくわかっていないんだ」
そう、聖は切り出す。
「秋人を見付けられないまま、新学期が来てしまった。だから、天野が何を考えているのか、わからないままなんだ」
静かに、殊更静かに話していると、聖は自分でも思った。
こうして制御していないと、暴れてしまいそうになる。
『っ』
電話の向こう。息を飲む音。
あぁ、何故こんなにも、離れているんだ。
そばにいたら、抱き締められたのに。
「正さんと秀の、情報網にも引っかからない。今のところ、打つ手なし、だ」
あぁ、残酷な言葉ばかりが、自分の口をついて出る。
聖自身も、その事実を噛みしめるように。
「ごめん。でも、必ず、秋人を取り返す。お前が返って来た時は、秋人も一緒に事務所にいる」
言霊。
俺たちは、それを大切にする。だから、ここで立名に宣言することで、それを成しえることだと、聖は心に刻んだ。
『聖さん、必ず、ですよ?』
それをわかって立名は、その宣言を実現させてくれと、言葉を発した。
今、日本に戻れないことを、立名が一番辛く思っているだろう。
だから、聖は、「必ず」と返した。
これから先、また辛い報告があるかもしれない。
でも、それは、必ず最後には秋人を取り戻した、という報告にできるように。
『聖さん、無理だけはしないで。あなたがいなくなることだけは、嫌ですから』
立名からの激励と、それから心配をもらって。
「俺は、大丈夫だ。ちゃんとお前の帰りを待ってる」
そう言って、通話を切った。
立名に、宣言した通りの未来を、必ず実現させる。
改めて、聖はその思いを強くした。
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