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冬、訪れた変貌 第一章 ②
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「正兄、ただいま。何この空気」
得に慌てた様子もなく、末っ子は帰って来た。
事務所にいた、正も亜希羅も特に慌ててはいない。
「天野です。ようやく姿を現したと思ったら、どこかで力を溜めていたみたいですね」
外を見ながら、正は言う。
前に会っていた分、天野の気配はわかる。だが、前に会った時よりも、数段力が上がっているように感じる。
「場所特定、難しいな。動き回ってる」
秀も窓の外を見ながら言う。
鞄はいつもの席に置き、パソコンを立ち上げている。
「あぁ、そういえば、章と勇は聖さんと純と帰ってくるだろうけど、太一は?」
泉林組みは、問題ないだろう。
太一は暇だ暇だ、と言いながら事務所にいたり、出かけていたりとまちまちだ。
「太一君なら、部屋にいるんじゃない?出かけるとも聞いてないし」
亜希羅が答える。出かけるなら、事務所に顔を出してから、出かける習慣が有るから、聞いてないのなら部屋にいるのだろう。
亜希羅が事務所にいるのも、最近では普通になってきたので、秀はそこは何も言わない。
携帯を弄りながら、秀は立ち上がったパソコンを、片手で動かしている。
「片手で携帯、片手でパソコンとか、秀君どうやったらできるの、そんなこと」
亜希羅が秀に視線を送りながら、どんだけ器用なの、と言う。
「慣れたらできる。太一呼んだから、すぐ来ると思う」
コレ追うのは、式使うか。と呟きながら、秀はパソコン画面を見始める。
秀の情報網内、地図の上を、転々と動き回る赤い点が出ている。
「便利すぎるわね」
さすがに亜希羅はそこまでできはしない。
正も、追っていた視線を外して、秀に任せることにしたらしい。
「追えますか?」
秀への問いかけ。
秀はすでに式を放っている。
「追うだけなら。動きが速いし、法則性も全くない。先回りは難しい」
パソコン上の点を、線にしても無意味でしかなかった。
何かをするために、動き回っている訳ではなさそうだ。
なら、何の為に動き回っている?
「俺たちに捕まらない為、か」
秀がそう結論付ける。
「そう見えますね」
正も、難しい表情をしている。
出てきたにも関わらず、自分たちに見付からないように動き回るのは、何故だ?と。
正は、自分の携帯に着信が入り、考えるのを中断して、少し場所を移動した。
「この空気何?」
太一が事務所へ入って来た。
どうやら、秀は事務所に来いとだけ伝えたようで。しかも太一は連絡が入るまで、寝ていたらしい。寝癖であちこち髪が跳ねているが、気にしている暇なく、この空気に事務所に来たのだろう。ただ、慌てている風でもないが。
「天野よ」
亜希羅が簡単に太一へ言う。
「ふーん。やっと出て来たんだ。でも、事務所にいるってことは、居場所は特定できてないの?」
答えがわかっても、特別慌てることもないらしい太一。
「動き回られてんだよ」
秀は己の前の、パソコンを太一に示す。
「うーわ、面倒な奴」
赤い点が、動き回っている。ここまで動き回られたのでは、先回りができないだろうことは、太一にもわかる。
「そいや、純は?」
太一の関心は、純だけなのだろう。
「自分の従兄や、他の高校生も気遣ってあげなさいよ」
呆れたように、亜希羅が言うが、太一は気にしてはいない。
「聖から早めに仕事を片付けて戻る、と連絡有りましたよ。章や勇も、一緒のようです」
今まで電話をしていた正が、太一への返答をした。
聖が戻る、イコール純が戻る、だ。
聞いた太一は、「そっか」とだけ言った。
この妙な空気の中、何が起きるかわからない。わざわざここにいる人間が、彼ら高校生たちを迎えに行くのは得策とは言えない。
待つしかないなら、待つだけだ。太一はそう思ったのだ。四人で行動を共にしているなら、まだ安心はできるだろう。
「今は個別に動かない方が良いだろうな」
秀はパソコンを見たまま、そう言う。
一人のところを狙おうとしているのなら、相手の動きがよくわからない今、個々で動くのは良いことではない。
逆に言えば、一人になって狙って来い、ともやってみる策も有るには有るのだが。
正がその判断をしていないし、相手の得体の知れないこの力相手に、一人で動くのも今は良いことではないだろう。
「そうね。一人になるのを待ってるとかなら、やってみる価値はあるかもしれないけれど……。どうかしらね。何かの考えが有って、今は動き回っているだけのようにも思うわ」
亜希羅も秀と同じ意見のようだ。
相手の狙いが全くわからない。
「あ」
「どうしました、秀」
秀が声を上げたのに、正が反応する。
「飛ばしてた式、壊された」
簡単な式だったからだろう。行動を追っていた先に、天野の罠が有り、綺麗に分断されてしまったのだ。
追っていたのが鬱陶しかったのか。
こちらが先回りできないことは、向こうも感じていただろう。なのに、わざわざ罠を張ってまで、壊してきた。
寸分の狂いなく追っていたのが仇となったか。罠は簡単に張れただろう。
「鬱陶しかったんじゃないの」
太一もそう分析した。
再度式を放つかどうか……。考えながら、秀はパソコンを見続ける。
「そうですね。天野が止まる動きを見せたら、また式を」
正はそう秀に言った。「わかった」と答えた秀は、パソコンから目を離さない。
少しだけ、動きがゆっくりになったように思うのは、式の追跡がなくなったからだろうか。
「式を通して、見られるのを避けていた?」
秀はそう感じる。
「そうね。どこかゆっくりになったわ」
亜希羅もパソコン画面を見ながら、秀に同調する。
正と太一はパソコンから目を離している。
動きを追う目は多数必要ではない。何かの法則が有る訳でもない。
狙いは何だ?正は静かに思考する。
今まで出て来なかったのが、急に出て来た。こちらが天野を追うのは、わかっていたはず。秋人を連れ去ったと思われる天野を、こちらが放置するはずはないのだ。
「狙いが勇だとしたら、彼が泉林から出て来た時が、危ないですね」
呟いた正に、太一と亜希羅の視線が集まる。
思い付くのは、天野が復讐相手としている田村の息子、勇の存在だけだ。
「四人で行動しているとはいえ、少し危険、ですね」
「天野が止まった瞬間、式じゃなくて俺自身が動く」
正の考えに、秀がそう名乗りを上げた。
天野のこの力。対抗し得るのは誰だ。泉林組みに、聖がいる。守りの純と章がいる。
それでも、この力の持ち主は危険でしかない。
「秀君だけじゃないわよ。事務所にこもってる全員で、よ」
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