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冬、訪れた変貌 第一章 ③
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ここは、どこだろう。
森の中?何故?
『これは、僕の記憶の中』
直接響く声。秋人は顔を巡らせたが、相手は見えなかった。
『僕は体を無くしたから、もう精神体だけなんだ。僕が、父さんを止められなかった。だから、たくさんの犠牲が出てしまった。それなのに、僕はずっとこの記憶の中に潜って、逃げて、知らないふりをしていた』
哀しみの中の声。秋人は、思い当たる。
一番最初に犠牲にされた、天野の子ども。
何も知らない女性と、二人でのんびり暮らしていた。そこに、天野が現れて、生活を崩された。
『ここは、母さんと二人だけで、静かに暮らしていられた場所。父さんはいなかったけど、それでも二人で、いつか父さんが戻って来てくれるって、信じて過ごしてた』
信じない方が、良かったのかな。
だって、父さんが戻って来た瞬間に、僕の体は奪われたから。
母さんは、必死に僕を守ろうとしてくれた。母さんは父さんのこと、愛してたけど、父さんは母さんのことなんて、何とも思ってなかったんだ。
父さんは言ったよ。僕をここまで育てたことは、褒めてやるってね。
母さんに子どもを産ませて、放置して。挙句子どもを自分の器にする為だけに、母さんに育てさせたんだ。
「返して!私の子を返して!」
悲痛な叫びが聞こえる。
『鬱陶しそうにね、父さんは母さんを殺したんだ』
お前が必要だったのは、子どもを産ませる為と、育てさせる為だけ。後はいらない。邪魔なだけだ。
父さんはそう言って、簡単に母さんを殺した。僕の手で。
信じられなかった。僕自身の手が。どうしてだかわからなくて、半狂乱になって、それでも体は父さんのものになってたから、精神が破壊されただけに終わった。僕の精神が壊れたから、父さんは簡単に僕の体を手に入れたんだ。
壊れて済む問題じゃなかった、って気付いたのは、何人も犠牲が出た後だった。
父さんは、僕だけで終わらなかったんだ。
何人も、何人も犠牲を出して。まだ生きようとしてる。
簡単に他人を殺して、自分は生きようとするなんて。狂ってるよね。
だから、僕は残ってた力と、犠牲になってしまった人の力を集めて、父さんに気付かれないように、ずっとずっと奥深くに潜んだ。
誰か、いずれ誰かが気付いてくれるんじゃないか、って希望を持って。
いつか、この負の連鎖を止めてくれる誰かが、現れるんじゃないかって。
他人任せばっかだね、僕は。それでも、もう僕の精神はどうにもできなかったから。
再生はできないから。犠牲になった人たちも、再生は無理だった。やってみたけどね。
やっと、君が気付いてくれた。
それに君は、あきらめなかった。
やっと、やっと、この負の連鎖を止められるんだ。そう思った。
今まで集めてきた分の力と、君自身の潜在能力。合わせたら、きっと父さんに勝てる。
君は、勝てるよ。
何もできなかった、僕を許してほしいなんて思わない。
ただ、ただ、この負の連鎖が断ち切られることを、祈ってるよ。
※
あぁ、これは、夢みたいなものだったのかな。
精神体でも、こんな風に夢を見るのか?
わからないけど。
俺に宿る力が、大きくなったのは、わかった。
でも、この力を、あの男に知られてはいけないから。だから、隠すように自分の精神の中に閉じ込めた。
精神の中に入れてしまえば、俺に馴染むのも早くなるはず。
負の連鎖、か。
終わるのを望んでいるのは、彼だけじゃない。今までの犠牲者全員だ。俺も含めて。
止める。必ず断ち切る。
何度だって誓う。彼らとともに、終わらせる。
終わらせなきゃ、いけないんだ。
もう、犠牲者はいらない。俺が、最後だ。
勝てる。そう言われた。だから、勝つんだ。
あきらめなかったのは、きっと俺だけではない。だから、こんなにもたくさんの力が溢れるように、奥深くに隠れていたんだ。
男が、泉林の周りをうろうろと動いているのは、気付いている。
俺は深くに封印されたまま、その様子を眺めているしか、今はできない。
自分自身の力も、溜め込まれていた力も、俺はまだ使えない。だから、まだ、見ているだけ。
男が何を考えているのかは、わかってる。
男の思考は流れ込んでくるから。章に絶望させたい、だって?
復讐相手が違っているだろう。章は関係ないじゃないか!
そう強く言ってやりたいけれど、俺の声は男には届かない。
だからといって、勇や正さんを狙えとかも、思えないけれど。
男にとって、中条に復讐するというのは、きっと仲間のことも含まれているんだ。だから、今は章をターゲットにした。
出て来ないことに、苛立ってる。秀さんの式だろう、追ってくるのを鬱陶しがってる。
章は、きっと聖さんや純さん、勇と一緒だ。
願わくば、男の思い通りに、車が停まらなければ良い。
でも、それは多分、俺の願い通りにはならないだろう。
だけど、そうなれば、彼らはわかる。俺が俺じゃないことを。
天野の外見が変わっていることを。
彼らが、無抵抗にならない事だけを、願う。今の俺にできることは、そんなことだけ。
この檻を、壊すだけの力が、まだ足りない。
満ちてはいるけれど、俺が使いこなせていないから。
まだ、時間が必要。だからどうか、お願い。
男の思い通りにだけは、ならないで。
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