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冬、訪れた変貌 第二章 ③
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あははははは
面白かった。
中条の連中も来ていたみたいだったけど、手は出せなかったのかな。
くすくすくすくす
はぁ、どうしようか。
笑いが全然止まらない。
「お前は秋人じゃない!」
そう言い切った石井章。
器と言ったら、殺気をすごく出して来た、中条の分家の人間。
でも、それでも、やっぱりこの体だったから、なぁんにもできなかった。
茫然と、悄然としていたような、田村の息子や石井章。あの顔が、本当に忘れられない。
あの顔が見たくて、回りくどいことをしたのだから。
思い通りになって、僕はとっても満足だよ。
ふふふふふ
「秋人はどうなったの?」
茫然としながらも、僕に聞いてきた子ども。
橘秋人の精神は、すでに封印されていると話してあげた。
絶望を味わってもらう為に。
もう、どうしようもないんだよ。この体は、僕の物で。もう橘秋人という存在はなくなったのだから。
さぁ、彼らはどうするのだろうか。
呆気なく、殺されてくれるのは、つまらないんだよ。
だから、少しは抵抗して欲しいよねぇ。
うまくいったら、石井章を連れて来ようと思ったんだけど。
最初に見破った声を発したのは、その子どもだったからねぇ。
面白すぎて、連れてくるのは止めてあげた。
どうせなら、中条に守られて、もっと絶望を味わえば良い。
あの子どもは、この体の自分に対して、無抵抗になるだろう。
なら、そんな無抵抗な子どもを庇って、傷付く中条を見て、子どもがさらに絶望に落ちれば良い。
そんな子どもを見て、さらに奥深くに橘秋人が行ってしまえば、本当にこの体は僕の物となる。
邪魔なんだよね。精神体だけで、なんとか生きようと試みてるみたいだけど。
また表に出て来られても、面倒だし。
強固な檻で囲ってあるから、まず無理だろうけど。
さっさとあきらめなよ。あきらめが悪いなぁ。
この手で石井章を殺そうか。そうしたら、簡単に精神は壊れるだろう。
今までも、あきらめの悪い器には、そうして来た。
一番最初の、僕の子どもは、自分の手で母親を殺したから、狂った。壊れた。
それで、わかった。狂わせて壊せば、器は楽に手に入る。
あははははは
自分の手だったけど、実際は僕の手なんだよね。あの時もう、僕は器の中にいたんだからさ。
自分の子どもながらに、馬鹿な子だと思ったよ。
ぬるま湯で、育ちすぎたのかな。体力もないみたいだったから、その後少し苦労したよ。
まぁ、そんな昔のことはどうでも良いけど。
この器は、適度に運動していたみたいだし。動くのになんの支障も無い。
それに、溢れ出るほどの力。
過去に何度も器を変えてきたけれど、これほど僕の力が漲るのは、久しぶりだね。
あぁ、でも石井章を殺すとなれば、中条を相手にしなければならないね。
今後生きて行くにも、中条は邪魔でしかないから、殺す予定ではあるけれど。
中条だけでなく、田村の息子だけじゃなく。中条の分家の人間も、石井章も、それから、もう一人、いたな。
あぁ、そうそう。渡辺純という名か。
ふふふふふふふ
橘秋人の記憶を見ることなんて、簡単なことだ。
今いるのは、中条三人、分家が二人。田村の息子と石井章と、渡辺純。八人か。
あと一人、中条の人間がいるようだけれど、コレは日本に戻ってきたら、始末しよう。
安心しなよ。一人だけ残るなんて、残酷なことはしないから。
日本に戻って、誰もいなくて。絶望に落ちたところを、殺してあげるよ。
橘秋人の精神は、何人目まで持つだろうか。
ここまであきらめ悪くあがいているのだから、たった一人を殺しただけで、壊れたんじゃあ、つまらない。
だから、石井章は何人目にしようか。
最後の一人に石井章を残すのも、また面白いかもしれない。
あの子どももきっと、壊れて、絶望して。
あはははははは
楽しい楽しい、殺戮劇だね。
最初は復讐劇って言ったけど。
あぁ、そうそう。隠れて出て来ない田村の居場所を、突き止めなければ。
うまく隠れてくれてるものだ。でも、さすがに自分の息子が手をかけられれば、出て来るかな。
女を殺した時には、出て来なかったけど。その後は息子を僕の目から離させたんだから、間に合わなかっただけだろう。
きっと、どこかで今回のことだって、見ているはずだ。
だったら、八人予定は、九人に変更だね。
息子と一緒に葬ってあげるよ。さっさと出てきたら良いのにねぇ。
守りたいなら、一緒にいたら良いのにねぇ。
※
あの男が、また何かをしていると、知っていた。
それでも彼は、もう体を自由に動かすことができず、真っ白なシーツの上に、横たわっていた。
昔あの男の力を封印したつけが、今になってやってきた。
過ぎた力だった。
自分が持つには。
体が軋んで、悲鳴を上げている。
指先を数ミリ動かしただけで、これだ。
とてもじゃないが、歩けはしないだろう。
だが、自分があの男を数年しか、封印できなかったせいだ。
愛する女性を、簡単に……。
動かない体が憎い。
気付けなかった自分が、憎い。
わかっていたのだ。自分の力では、数年が限度だと。
わかっていたのに。それでも、彼は自分が弱って行く姿を、愛する女性や子どもに見せたくはなかった。
弱り果てた自分を、彼女はきっと守ろうとしてくれただろう。
自分はもう、彼女を守る力すら、ないのに。
なんとか、息子だけは守り切った。知り得た情報から、彼女の血縁者にもなる中条に、預けられた。
今は、それだけが救いだった。
彼は、決して隠れている訳ではないのだ。
もはや命の灯火が消えようとしている体には、霊力など欠片もなく、探知されないだけだった。
殺したいなら、私を殺せば良いだろう。
そう思うが、あの男に自分の居場所を知らせる術も、もうない。
力尽きて、弱り、暗くなっていく視界。
あの男に殺されずとも、己は勝手に死んでいく身だ。
だが、このまま、何もせず、中条に全てを預けることは……。
うっすらと、瞼が持ち上がる。
彼の瞳には、まだ光が有った。
痩せ衰えた体では、何もできはしないだろう。
霊力さえ、失った体だ。
けれど、何か、何か、彼らにできることは……。
「あなたが、田村幸昌さん?」
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