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冬、訪れた変貌 第三章 ③
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「責を負うとか、負わないとか。負わせるとかそんなこと、誰も思っちゃいない」
静かにその場に、光を纏った存在が降り立った。
一斉に降りかかった光が、その場にいた彼らの傷を消し去った。
いるだけで、周りに影響を与える存在。誰もが待っていた、存在。
「秀」
動こうとした、正を制したのは、秀自身。
次いで亜希羅たち、離れた場にいた四人が、一瞬にして正のいる場に戻された。
誰にも、邪魔ができない、圧倒的な存在。
「正兄、悪いけど、結界張ってて」
動かないで、と制したのは、彼らを守って欲しいから。
正が、戦況を見ていただけなのは、知っていた。自分を守る為に、動こうとしていてくれたのも、わかっていた。
でも、守って欲しいのは秀自身ではなく、仲間たち。
幼い頃の秀を知ってはいたが、潜在的な力は、あの時よりも圧倒的に大きくなっている。
場を支配しているのは、秀の清浄な力。
「君は、何だ?」
顔を歪める天野に、秀は冷静なままだった。
「俺は神を知るもの。ただ、それだけ」
神を知っているから、だからこその力。
神さえも、自分の式神として下した。だからこその力。
「う、ぐっは……」
急激に、天野が膝をついた。
秀自身は、まだ何もしていない。それでも、秀はその理由がわかっている。
「秋人、聞こえているはずだ。お前を縛っている檻はもうない」
静かに、秀は秋人へと語りかける。
「馬鹿な、馬鹿な、馬鹿なぁぁぁぁぁ」
苦しみ、のた打ち回る秋人の体。
章が、前へ出ようとするのを、純が止めている。
「秋人が、秋人が……」
章の声が、秀まで届く。
それでも、秀は振り向かなかった。
「大丈夫」
ただ一言、章に言っただけ。
バンッッ!!
はじけ飛んだ光の粒子と、闇の粒子。
光は穏やかに降り注ぎ、闇は光に消されていく。
「う、ぐ、げほっ」
うずくまり、咳き込む秋人に、秀は歩み寄る。
「大丈夫だ。大丈夫」
その声が、背中を撫でる秀の手が、優しく秋人を包む光が。
闇を静かに消して行く。
「あり得ない、あり得ない」
わめく声は、空中に吐き出された醜い精神体のモノ。
「あり得ないことじゃない。秋人自身が、お前を打ち破ったんだ。お前が今まで犠牲にしてきた人間全てが、お前を否定した」
秀は秋人の傍に座りながら、その精神体へと言葉を投げる。
秀自身がしたことは、秋人に少しだけ手を貸しただけ。
すでに秋人は、力を蓄えていたのだ。気付いたのは、ついさっき、ここへ来た時だったけれど。
だから、少しだけ秋人に力を貸して、縛っていた檻を破った。ただ、それだけで、良かった。
今の秋人には、秋人自身の力以外が宿っている。でも、それについては、後回しだ。
結界の中に守られていない、秀と秋人に二人に、天野の力が迫った。
「精神体だけでも、攻撃できるのは、素直にすごいと思うよ」
秀はそう言って、天野の力を消滅させる。
「僕は、この世界の全てだ。僕が、全てなんだ」
天野の力は無茶苦茶に暴れて、秀と秋人以外にも襲いかかる。
秋人を守る立ち位置を崩さない秀が、力を無効化させていく。正の結界が、仲間に迫った力を無効化する。
「驕った考えだ。自分が犠牲にしてきた人間を、何だと思っている?」
秀の怒りが、天野へと向く。
渦巻いた力の波動が、天野を貫いた。
「は、ははは。犠牲になった人間?そんなもの、ただの僕の、器さ。道具にしか過ぎない!」
貫かれても、天野はその精神であり続けた。
構成する姿は、昔の彼の姿なのだろう。
「傲慢だな。全ては自分の為、か」
吐き捨てるような声は、聖のものだろう。
今は、彼らを見る余裕を、天野が与えてはくれない。
「驕り高ぶった精神か。だから、内からの破壊に気付くこともできず、今それが崩されたと、何故気付けない?」
精神体だけになった男へ、容赦ない秀の攻撃が続く。
天野からの攻撃は、秀が正が、全てを無にしている。
「内からの破壊だと?そんなものは、認めない!」
飛来して、再度秋人に近寄ろうとした精神体を、秀が何のためらいもなく吹き飛ばす。
「二度目はない。許すはずもない。お前はそのまま、精神体でいることも、許されない」
大きな光の力が、天野を覆う。
「何だ、コレは?!」
光は天野を覆い、動きを封じる。
圧縮していくように、光が小さくなっていくにつれて、天野の精神体を飲み込んでいく。
「や、メロ。ぼく、ハ、こんな、トコロ、でハ、シななイ!」
崩れ去る精神体。それでも天野の力は、抗い続ける。
「お前のしたことは、許されない狂気。この世にお前の行きつべき場所は、もうない」
断罪するかのような、秀の言葉。
「輪廻を狂わせ、さらには何の罪もない人間を、ただの道具だと操った。お前の行くべき先は、ただの無だ」
天野を覆い尽くしていた光が、小さく弾ける。
そこには、もう、何も無かった。
秀の言葉通り、無に還された存在。
荒れ狂うように舞っていた、秀の力が収縮し、その場を静寂に落ち着かせていた。
「秀さん……」
小さな、秋人の声。秀はしゃがみ込んでいる彼の前に膝を付いて、目線を合せた。
「よく、頑張り続けたな。今は、休め」
静かに傾いた秋人の体を、秀はそっと抱き込んだ。
この体に、残ってしまった悲しい心。憎しみの心。
秋人が持ち続けるには、辛いものだろう。だが今は、秋人を休ませるのが先である。
「秋人!!」
やっと、やっと。引き裂かれていた二人が、再会できた。
秀は、眠る秋人を抱き締めたまま、章を見上げた。
「大丈夫。眠っているだけだから」
静かに近付いてきた正に、秋人を預ける。
自分が運ぶより、兄に任せた方が間違いはない。
「秀君」
静かに名を呼ばれ、姉へと顔を向けた秀は、静かに笑う。
「大丈夫。俺は大丈夫」
秀の力を見ても、誰も見方を変えていないことは、わかっている。
だから、亜希羅へ大丈夫と答えた。笑うことが、できた。
秀の頭を、くしゃりと撫でる手があった。
「聖さん?」
「全部任せちまったな」
その顔は、謝罪もあり、また感謝もある。
変わらない、聖の仕種。
「平気だ。これくらいは、なんともない」
だから、秀もいつも通りの返事。
誰もが変わりなく、秀に言葉をかける。秀も変わりなく、言葉を返す。
自分の力を解放したが、ここまで変わりなくとは、秀は思ってもいなかった。愁いていたことは、何もなかった。
だから、秀は仲間の中で、笑っていられた。
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