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終幕 正と亜希羅
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「兄さん」
亜希羅は静かに、兄に声をかけた。
「亜希羅、私は何ができたんでしょうね」
答える正は、静かに空を見上げた。
雪雲が、広がっているのか、暗い雲が太陽の光を遮っている。
「精神的な、支えだったと思うわ」
亜希羅も、同じように空を見上げた。
「秀も、章も、居場所として、仲間を受け入れた。私は……そうですね、少しだけ、離れようと思います」
このままでも、良いのだけれど。
自分を見失ってしまいかねないと、正は思う。
それでは駄目なのだ。ずっと、支えてあげられなくなる。
「兄さんは、頼ろうとしてくれないもの。ずっと、傍にいたから、わかるわ」
亜希羅は、正を止める気はない。
正が選ぶ道を、妨害する気はないのだ。
「頼って、頼られて。それが多分仲間としての、在り方なんでしょうね」
考えるだけ考えて、それで正が選んだ道。
「頼れる相手を、兄さんが見付けられると、信じているわ」
今回のことで、秀に負担がかかるとわかっていて、秀に任せた。
それは、頼ったことにはならないのだろうか。亜希羅は思うが、そこは口には出さなかった。
「弟に、一方的に任せたことを、頼ったと言えるとは、思えないんですよ。できるなら秀にも私を、頼って欲しかったのかもしれません」
そういえば、頼ろうとしないのは、弟も同じだったな。亜希羅は思った。
そして先の件を、一方的に任せてしまったと、正が悔いていることも。
はらりと、静かに雪が舞い出した。
「勇君と、再会した時は、春の桜が舞っていたのにね。今はもう雪だわ」
亜希羅は、静かに笑う。
どうしてこう、私の兄弟たちは、堅苦しく考えることしかできないのだろうか、と。
「季節の移り変わりは、早いですね」
冷えそうだから、中へ入りましょう。そう言う正に従って、亜希羅も中へと入った。
「兄さんが、今後どこでどうするかは、聞かないでおくわ。でも、覚えてて。皆ここで待っているから」
兄の部屋の中。
すでに整頓されていて、すぐにでも出て行ける状態だった。
ここは、兄の家だ。それは、違えようがない。
「ここに来て、結構過ごしましたね。親への反発だった。ただそれだけだったけれど。仲間がいて、私は本当に楽しかったんですよ」
笑う正は、ここへ来た当初のことを、思い返しているのだろうか。
「皆への、説明はどうするの?」
亜希羅は、静かに問いかけた。
「私は、このまま、ここから離れます」
説明は、しないという意思表示。
全く、このまま何の説明もなくいなくなれば、皆心配するだろうに。
「私は弱いんですよ。だから、亜希羅、お願いします」
なんてことないように言っているけれど、きっと皆の顔を見たら、このままで良いと思ってしまうからだろう。
「仕方ないわね。でも、立名には、話しておいて。あの子、帰って来るんでしょう?」
仕方ないと言いながら、亜希羅は正の意を汲んだ。
ただ、ここにはいられなかった弟には、ちゃんと説明しなさい、と。
「ええ。そうします」
正は笑うと、静かに亜希羅に鍵を渡した。
この部屋の鍵だ。自分が戻ってくる時、必ず妹がいてくれるように。
その願いを込めて。
亜希羅は静かにその鍵を受け取った。
「お願いします」
正はその言葉を妹に発して、そのまま玄関から外へと向かって行った。
「こうと決めたらこう、なんだから。まったくもう。肩っ苦しく考えるのを止める為に、家から出たはずなのに。変わらないわね、兄さんは」
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