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歯車は廻り出す ①
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その場所は、いきなり開かれた視界に、突然飛び込んできた。
道は有った。きちんと舗装され、ギリギリで車がすれ違えるだろう道が。
だが、景色は変わらなかった。
右を見ても、左を見ても、前を見ても。ついでに振り返っても……。
木しかない。木、木、木、木……だ。
森の中……否、山の中と言うべきだろう。なにせここまで延々と三十分以上、上り坂を歩かされたのだから。
四月から通う学校の下見に行こう。
思い立ったのは、昨日だった。
特殊能力者の集まる学校で、全国各地、また諸外国からも生徒が集められる故に、受験会場は四か所有った。
家が孤島で、船での往復時間もシャレにならない俺は、一番近い場所で試験を受けた為、高校を見ていなかったのだ。
「入寮日まで待てば良いのに……」
散々母親にそう言われつつ、出て来て良かったと、今は思える。
なにせ、バスが朝に二本だけなのだから。休みの日は、夕方にも有るものの。何故に案内書に、このバスの時刻表が載っていないのか不思議だ。
もうバスが無いと知り、入寮日には増えるのかと駅員に聞いたのだが。
「そんな予定はない」
それが答えだった。
今はたしかに、インターネットという、調べるのに適切なネットワークが有る。
けれど俺は、自分の特殊能力により、機械類に一切触ることが出来ないのだ。
俺が乗った車や電車が故障する、ということはさすがに起きないが。手に持つ携帯電話や、自分で操るパソコンといった、文明の利器は全くもって扱えない。否、多少であれば使用可能だが、一日もしないうちに壊れるのがわかる物を、あえて触ろうとは思わない。と言うべきだろう。
この学校に入って、少しは自分の力が抑えられるようになれば、今まで経験できなかった友人たちとの電話やメールのやり取りが、出来るようになるのではないか。そんな期待も実は有ったりする。
俺自身持て余しているが、きっと家族たちの方が俺を持て余していたのだろう。全寮制のこの高校に入る、と言った時家族全員に賛成された。特殊能力を持つが為に、家族から迫害されていた、ということではない。念の為。別に俺だけが突然変異で、この力を持って産まれたわけではないのだから。まぁ、力が強すぎたというだけの事だ。
それに今の時代、何かしら力を持っているのが、珍しいという事もなくなっている。持っている人間は、依然として少数だけど。
そういう力を使っての犯罪が増える一方で、警察機構等が、対処する為の部隊を作った。その為に、特殊能力者たちは、世間に受け入れられつつあるのだ。良い意味だけではないが。なにせ犯罪ありき、だからして。
特殊能力を持った子どもたちを、犯罪者に育てなければ良い。この学校の創設者の考えらしい。
たしかに、高校時代に不良と呼ばれてしまう人間が、出てくると思う。何の統計もなく、ただの俺自身の、偏見も入った考えだが。
こんな山奥に有って、同じ年頃の人間だけで構成された高校という場に三年間居続ける事で、鬱屈したフラストレーションが溜りに溜まって、卒業後に大事件を起こした。という話しを聞いたこともない。創設者の狙いは、功を奏しているのだろう。
「おい、お前。ちょっと邪魔だ。どいてくれ」
不意に聞こえた声に俺は驚き、取り留めもなく考えていた思考が霧散した。
勘は特殊能力のおかげて、人並み以上な為、言葉の意味を理解する前に、俺の体は勝手に動いていた。
気付けば俺は後ろに飛び退いていて。今まで俺のいた場所に、同じ年頃の長髪の男が一人立っていた。
「お前……どっから湧いて出た?!」
俺の言い方にムッとしたのか、顔をしかめたソイツは、人差し指で上空を差した。
上空には何も無い。木の枝は突き出ていないし、建物の屋根が突き出ているわけでもない。有るのは、真っ青に晴れた空だけだった。
「……そら?」
疑いたっぷりに問いかけた俺に、ソイツは一瞬眉根を寄せ、あぁと納得したように頷くと、
「あお」
と誰かを呼んだ。
瞬間ソイツのすぐ横に現れたのは、長い白……じゃない、銀髪の二十歳は越えているだろう長身の男。
「なっ?!」
「驚く事でもないだろう。この高校に入るんだろ?だったらこれは、日常茶飯事だ」
目を見開いて驚きをあらわにした俺に、ソイツは何でもない事のように言う。
たしかにこの学校に入る特殊能力者は、俺のように超能力者と言われる者と、霊能力者と言われる者の、二種類に別れる。俺は霊能力者と言われる人間に、今初めて出会ったのだ。
「き、聞きたいんだけど……」
「恭、ここから離れないと」
言いかけた俺の言葉は、突然現れた人外だろう男の低い声に邪魔された。
「話しは後だ。聞きたい事が有るならついて来い」
恭と呼ばれたソイツはそう言うと、突然森……否、山か。とにかく、木々の中へと走り始めた。
「お前……早い……な」
信じられない。俺は肩で息してるのに、平然としてやがる。
俺の身体能力は、超能力のおかげで常人より上だと思ってた。
森……もう、森でも山でもどっちでも良い。木々の中を走って、肩で息して座り込んでる俺に対して、ソイツは平然と立ってるのだ。
「お前が遅いだけだろ」
フンと鼻で笑ったソイツに、少しカチンと来たが、とりあえずは脇に押しやる。俺が聞きたいのは、そんなことじゃないんだ。
「なんで空から、降って来たんだ?」
という疑問だ。
「理由は色々有るが、お前こそあそこで何してた?」
答えではなく、質問を返されてしまった。
「何って、学校見学」
そう言った俺に、ソイツは驚いた顔をした。
「延々歩いて?お前インターネットとかしないのか?」
聞きたい事が有るのは、俺の方なのに、質問され続ける。
「そうだよ。ネットはできない。機械はすぐ壊すから」
ムッツリしてしまうのは、もう仕方ないだろう。
だって、俺が聞いた事答えてくれないし。ソイツはふーんと頷いていた。
「もうそろそろ動けるだろ。森を抜けるぞ」
森というか、もう山の中だよな、ここ。でもソイツが森、って言うから、森で良いけど。
勝手に決めて歩き出すソイツに、俺は慌てて立ち上がってついて行く。
こんなとこに置き去りにされたら、俺は迷子になる自信が有る。そんな自信いらないが。
「あの学校は、在校生と教師しか入れない。卒業生は例外だ。結界が張ってあるんだ。越えられる程の力が有れば、入れただろうがな。力は霊能力でも、超能力でも一定以上必要だ」
歩き始めてすぐに、ソイツは説明し始めた。
それは、案内書にも載ってなかった事だった。バスの他にも、案内書に乗ってないこと、多くない?秘密主義なの?
入学する人間にも秘密にするって、ひどくない?
「結界を抜けるのに失敗して、あの場に残っててみろ。入学前から減点されるぞ」
その言葉を、最初はうまく理解できなかった。
「ちょっと待て。結界を抜けようとしたのは、お前だけだろ?つまり、あの空から降って来たのは、結界を抜けるのに失敗したって事か?俺関係ないじゃん」
「その場に残ってて、俺じゃない、関係ないって主張、誰が信じるんだ。だから、ちゃんとついて来いって、言ってやっただろ。俺一人逃げてたら、お前だけ減点になってたぞ。感謝されても良いくたいだ」
すごく理不尽な事を言われている気がする。否、きっと気のせいじゃない。
「失敗したくせに」
ボソッと呟く俺の言葉に、ソイツはいきなり近くの木を思いっきり殴りつけた。
「ネット出来なくて、情報のないお前に、情報を教えてやっているのは誰だ?」
「……なんで結界抜けようと思ったんだ?」
不機嫌になった相手を見て、話題を変えることにする。それしかない。それに限る。
「減点の反対だ。というか、別にそこはどうでも良かったんだ。単なる面白半分だったし。けど、抜けられないとムカつくだろ?!」
「……つまり、負けず嫌いなんだ」
呟く俺に「負けるのは嫌いだね」とはいて捨てるような声が返って来た。
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