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歯車は廻り出す ②
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「なぁ、なんで空だったんだ?」
質問に答えが返って来たから、また質問してみることにする。
「単なる思い付きだ」
面白半分だったり、思い付きだったり。結構面白い奴なのか?
質問にも答えてくれるようになったし。
「どうやって空……?」
「あおに会っただろうが」
当然の疑問だと思うのに、不思議そうな声が返って来た。
「否、会ったけど。空飛ぶことと、そのお兄さんが結びつかないんだけど?」
ソイツ以上の不思議そうな声を出して、お兄さんを見つつ質問する。
「……あぁ、そうか。超能力者ってのに初めて会ったから、わからなかった。だいたいの霊能力者は、あおの正体見抜くから。あお」
一人で納得すると、隣を静かに歩いていた、あおなる青年を見上げるソイツ。
青年はソイツを見て、俺も見る。
「良いのか?」
ソイツに問いかけている。
俺は訳がわからないから、傍観だ。
「良いよ、別に。説明するより、見た方が早いし。でもあおが嫌なら、強制はしない」
ソイツは何でもない事のように言っている。青年は、
「嫌ではない。驚かせるのが、本意ではないだけだ」
と返して、フッと姿が掻き消した。
大気中の水気が、一瞬濃くなった気がした。
俺は本当に、訳がわからず、ぼんやりしていた。
「上だ」
ソイツの声に誘導されて、俺は空を見上げて絶句した。
「龍?!」
「あおは青海という龍神だ。本性はアレだけど、普段は便宜上人間の姿になってもらってる」
ソイツの説明中に龍の姿は消え、青年の姿がまた地上に戻って来た。
「精霊なのか……」
霊能者に会った事は無かったが、そういう人外がいることは、案内書に書いて有った。
うん。これは重要だもんな。
書いてなかったことも、重要だったとは思うけど、そこはもう何も言うまい。
あおと呼ばれていた青年が、突然姿を現したりしたから、人外だとは思っていたが。まさか龍とは思わないだろ。
「ま、そういう事だ」
ソイツは軽く言っている。
また歩き出したから、慌ててついて行きながら、俺は落ち着こうと深呼吸した。
「ところでさ、お前どんな能力が有るんだ?」
精霊のお兄さんが龍神っていうのは、わかったけど。でも、竜神が、どういう能力が有るのかは、理解してない。……まぁ、空は飛ぶんだとはわかる。
「こういう力ですって言って見せた所で、お前見る能力有るのか?あおは今普通の人間にも見えるようにしてるから、お前でも見えるんだ。実際あおが出て来るまで、お前気付かなかっただろ」
呆れたように言うソイツに、もっともだと頷いだ。
目に見える物質を、手を使わずに動かしたり出来るのが俺の持つ超能力。本来は不可視なモノを見たり、祓ったりするのがソイツの持つ霊能力。
可視の物質に作用する超能力しか持ち得ぬ、霊能者にしてみれば普通の人間とも言える俺が、ソイツの能力を見るのは不可能なわけだ。
「けどまぁ、霊能者の中にも、姿隠してるあおに気付かない奴もいるけどな。っていうか、姿隠してるあおに気付く奴のが少ないな」
「んじゃぁ、お前は……」
「恭だ。いい加減お前って呼ぶのやめろ」
皮肉な口調で話すソイツに言いかけた俺の言葉は、ソイツに寄って遮られた。少し苛立っているように感じるのは、呼び方のせいらしい。
「あ……でも、大概俺もお前と、呼ばれ続けていた気がするんだが」
そういえば、お互いにまだ名乗っていない。
「名乗らなかっただろう」
「聞かなかったじゃないか。それにお前だって、今まで名乗ってない」
否、出会い方が強烈過ぎて、自己紹介なんて忘れてたんだ。そこはどうでも良いか。
「恭だって言ったんだ。で?名乗らないのか?」
「圭吾だ」
「あ、そう。で?お前の能力は?俺のと違って、お前のは見えるからな」
ソイツ……恭は、名前を聞いておきながら、変わらずにお前と呼んでくる。
「圭吾だよ。……見るんだったら、広い場所のが良いな」
「広い場所か……」
どこか有ったかと考えるような恭。俺は言い訳じみた事を言い添えた。
「力加減ができないんだよな。よく色んな物壊すし」
「それでネットできないんだな」
納得して頷く恭は、さらに一言、
「未熟者」
と言った。
「だからこその、稜蘭高校ではないですか?」
穏やかに、俺の弁護をしてくれた龍神に、俺は何度も頷いた。
「ま、それもそうだな。あおはどう呼ばれたい?」
龍神の言葉に納得してみせ、その龍神に恭は問いかける。
「あおで構いませんが」
柔らかく笑う龍神は、問いかけた恭ではなく、俺を見ている。
「圭吾とお呼びしても、よろしいでしょうか?」
あ、俺が龍神をどう呼べば良いかってことか。
「え、あぁ、どうぞ」
つまり俺も、恭と同じで、あおと呼んで良いらしい。
ちょっと精霊を話すとか、おっかなびっくりになってしまった。
「珍しいな。あおが誰かを気に入るのは」
笑う恭に、龍神も笑顔を返している。
「私には、恭の方が珍しいですね。恭が距離を取らなかったので、私もそうしたまでです」
恭は、普段人と距離を取ろうとするのか。でも俺には、そんな距離取ってないぞ。
距離取るどころか、仲良くないと言えないくらいの、毒をはかれていると思う。
「別に、俺が離れるんじゃなくて、相手が離れて行くんだから、仕方ない」
「それは恭の性格上の問題ですね」
にっこり笑顔のまま、辛辣な事を言った龍神は、恭が睨むのを全く気にしていない様だった。
※
「今のは龍だったね」
森の入り口。高校の門の中で、色素の薄い茶髪の男が言う。
「そうですね。誰かの精霊でしょう」
もう一人の黒髪の青年は頷き、ゆっくり校舎へ戻り出した。
「精霊?この場合、式神なんじゃないの?」
男も戻りながら、青年へと問いかける。青年は、穏やかな口調で返答した。
「この高校ならではの、呼び方ですよ。神道、仏教、キリスト教等々が、混在していますから。式、護法童子、使い魔等、呼び方が色々あるので、全てを精霊と呼ぶ事になってるんです。って、先生……、私と同時期にこの学校へ来たはずなのに、何故知らないんです?」
外ではやはり、先の龍は式神と言うのだ。この学校ならではの呼び方を、知っていなければならないはずの男を、青年はうろんな目付きで見やる。
「なーんか、先生って呼ばれるの、変な感じ。さっきのは、ここを抜けようとした子どものだろう?」
青年の目付きなど、意に介した風もなく、男は他の事で面白そうに笑う。そうして、青年に別の質問を投げかけた。
「ええ、そうですね。他にももう一人いたようですから。そのもう一人に教えたのではないですかね」
青年の方も、男の会話のズレに慣れているのか、全く気にせず肯定し、相変わらずの口調で答える。
「教師が校門に来るまでに消えてれば、追わなくても良いはずだよね。どうして二人いたってわかるのかな?」
つまり二人は、恭が結界抜けに失敗した事に気付き、見に来た教師たちだ。
結界抜けに失敗した者が、教師が来る前にその場を立ち去っていたなら、追われることもなく、名前も聞かれず、減点対象にはならない。
教師二人が校門に着いた頃には、人の姿は無かった。ので、二人は校門を出ず、今はゆっくり校舎へと戻っているのだ。元々結界抜けに失敗した生徒となる者を、見付ける気もないから、教師たちはのんびりと校門へ行く。
男は、結界抜けをしようとしたのが、一人だけだったとわかっている。術を使うなりなんなりで、結界に直接だろうと間接だろうと、触れた人数は教師陣には把握できるような仕組みになっているのだ。
なのに、青年は二人いた、と言った。
何故に?
「それは、私の特殊能力故に、ですよ」
やんわり答える青年は、それ以上言うつもりはないらしかった。
「長男ってこれだからなぁ……」
実感こもった男の言い草に、青年は笑いを噛み殺す。
「私だけが特殊じゃなくて、安心しました」
あきらかに、からかいの籠った声。
「君と話すのは楽しいけど。そういう所は嫌だなぁ。達観し過ぎ。俺の半分も生きていないのに」
アメリカ人だと言い張る男は、手を広げて肩をすくめ、首を左右に振ってみせた。その仕種は、本当に様になっている。
「日本にいたのは、いつ頃ですか?」
無駄に長生きと言いかけて、さすがにそれは良い過ぎかと、青年は別の事を聞く。
「んー。いつだったかな。結構昔」
時間の感覚狂ってるから、という男に、青年は追及はしなかった。
「歴史の授業もできそうですね」
「家に籠ってた時期もあるからね。特定の出来事について語れと言われたら、その場にいたり、見たりしていたら語れるかもしれないかな。いくらでも。ふーん。そっちも面白そうだね。今度校長に掛け合ってみようかな」
特殊能力者で教師を揃える故に、教師の人数が足りていない。
あり得ないことに、一人の教師が二つ以上の科目を受け持っていたりする。
無理矢理高校の規定に、当てはめているような所があるのだ。
「あまり校長を困らせない方が良いですよ。ただでさえ大変そうなのに」
悪戯を見付けた子どものように笑う男に、青年は自分で言い出した事であるはずなのに、咎めている。
「あぁ、うん。英語以外の教員免許、持ってないなぁ」
二つ以上の強化を持つ教師が問題なのではなく、この男の存在自体が問題なのだ。正体と言うか、出生というか。
その正体を、この男は隠す事もない。また本気にしている教師や生徒も少数なのだが。極少数が、この男の正体の事実に気付いている。
校長含め、理事会に、それが事実なのかどうなのか、と青年は聞かれた事が有った。男が隠そうとしていないので、事実であると答えたが。
「問題なのは、あなたの正体ですよ」
問題にしている部分が違う、と青年は男に言う。
「えぇ?!俺ちゃんと言ったからね。採用したのは校長だよ?」
何で今更問題になるの。と男は言いた気だ。
「理事会に、特殊能力者は極少数ですよ。校長は、超能力者です」
あなたが時々突拍子もないことをしでかすから、正体が本当にそうなのか、と問題になったのだ。と青年は言う。
生徒より自由奔放に動き回るこの男は、色んな意味でこの高校一番の有名人になりつつあった。
この高校に着任したのは、年が明けてすぐくらいからだったというのに。
この男は出会った人間に、自己紹介時必ずこう言う。
「I'm a Vampire」
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