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歯車は廻り出す ⑥
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「リラ?ねぇ、聞いてる?」
まるで花が咲いたように、春の日差しを受けて、綺麗に微笑む玲奈に、リラは見惚れていた。
言葉を返して来ないリラに、玲奈は少し不安に思いつつ、顔を覗き込んだ。
「あ、ごめんなさい。レイ、あなたとっても綺麗だから、つい……」
見惚れて返事をしなかったのだと、リラは素直に玲奈に告げる。
「ありがとう。でもリラ、あなたは可愛いわよ?」
「え、えとあの、……ありがとう」
恥じらうように微笑むリラは、玲奈のような大輪の華とは違い、人の心を和ませる小さな可憐な華のようだった。
「ここは騒々しくて嫌なの。外へ行って、お話ししません?」
玲奈の提案に、リラは快く頷いて答えた。
リラ自身、玲奈に興味を抱いたのか。ゆっくり歩いて外へ向かう玲奈に付いて、リラも外へとゆっくりと歩く。
「リラの能力は何ですの?」
まどろっこしいのは嫌いなのだ。玲奈は単刀直入にリラへと問いかける。
超能力者では、玲奈と同じになってしまうから、同室にはなれない。仲の良いクラスメイトにはなれるだろうが。
「エクソシストです。悪魔祓いと言うのだと聞いてます。あんまり能力が高くなくて……お父様は、神父様なのですけど」
リラの父は、アメリカで教会を任されている、強い力を持ったエクソシストだ。リラはその力を受け継いだ。
アメリカ育ちのわりに、リラには大胆さがない。どこかおどおどして見えるのは、自分の能力の自信の無さからか。
けれどリラと玲奈は、同室になれる可能性が出て来た。リラのエクソシストという能力は、霊能力者に分類される。
「お母様が日本人でいらっしゃるの?」
「そうなんです。静かで優しくて。でも、お父様が厳しくて……一人で日本へ行きなさいって」
小さなリラの声は、初めての土地での不安と戸惑いに揺れている。
「そうなんですのね。私はエスパーよ。超能力者。人の心が読めてしまうの」
対照的に、玲奈はハッキリと物を言う。
超能力者であることは、霊能力者のリラにはわかっていたかもしれない。けれど、どんな力を持っているかは、言わなければわからないだろう。玲奈はリラに自分の力を隠すことはしなかった。
「えっ?!」
驚いて、玲奈を見詰めるリラ。
「心配しないで。制御は出来ていますもの。読もうと思わないかぎりは読めないわ。そして今は、読もうなんて思っていなくてよ。だって、リラとは声を出し合って、本音で話し合えると思ってますもの。そうでしょう?それに、簡単に人の心をのぞくなんてこと、したくありませんわ。でも、さっきの武道館のような騒々しい場所は駄目。色んな人の声が、聞く気が無くても入ってきて、混乱してうの」
玲奈はリラを安心させようと笑う。
「サトリと言うの?」
問いかけるリラ。
心を読めるという部分には驚いたが、玲奈の言葉を聞いて、かまえる必要はないと理解したようだ。
それに対して、玲奈はとても安心する。
心が読めると知った途端、いなくなってしまった友人未満の人間は多い。いくら制御出来ていて、読もうと思わないかぎり読めないと、力説しても聞いてもらえない。
でも、リラは違った。
その力の名前を聞いたのだ。
リラにとっては、今ここで玲奈に心を読まれていたとしても、全く困らない。玲奈の言った、読もうとしていないという言葉を、しっかりと信じたこともある。
「あら、それは妖怪の名前だわ。でも、そうなのかしらね。けれど、すべてを読み切れるわけではないから」
困ったように玲奈は笑う。
サトリと言われても、怒る感情は玲奈にはない。
そんなことは、玲奈には怒ることではないのだ。
心が読めることを知っても気味悪がらない、傍にいても気にしないでいてくれるリラの存在の方が、玲奈には大切だったから。
「ごめんなさい。そうではなくて、違うんです。レイは妖怪ではないわ。だって、光に包まれていますから」
慌てたリラが、弁解する。
サトリという名は、母に少し聞いただけだった。まさか妖怪……魔物の名前だったなんて、リラは思ってもいなかったのだ。
サトリは相手の思う事すべてをよんでしまう、妖怪の一種だ。否、元は妖怪ではなく、玲奈のような力を持った人間が、すべて理解し『悟る』というところから、サトリという妖怪として差別されたのが始まりかもしれない。
リラのような理解者が傍にいなければ、妖怪視されて差別された人間は、本当に妖怪になってしまうことも有ったかもしれない。
妖怪を生み出したのは、人間の弱い心からで有ったことも、一つなのだ。
「気にしていないわ。お祖母様にはよく言われたもの。でも私、光に包まれているの?」
玲奈の力の制御は、祖母にそう言われたくなくて、できたものだと言って良い。
超能力者である玲奈は、霊能力者のリラのように、オーラを見ることはできない。
「ええ。とても綺麗で強い光です。眩しいくらいに輝いてて。心から強い人なんだと、わかります。そうでなければ、人の心を読めてしまうと知った時に、きっと闇に引きずられてしまっていたのだと、わかるくらいに」
勢い込んで言うリラに、玲奈は微笑んだ。
今まで少しおどおどしていたのに、他人のことに、ここまで優しくできるなんて。玲奈はそう思った。
リラは、玲奈の持つ強い力のオーラに惹かれていた。容姿も目を引くけれど、これだけの強く綺麗なオーラは、今まで見た事が無かったのだ。
「ありがとう。時々ね、強い人の心は遮断できなくて、怖いの。だって、そういう人の心は、大体が増悪なんですもの。心が引きずられそうになることも、有るのよ」
リラの心は優しくて暖かい。この春の日差しのようだと、玲奈は思った。
すべてを包み込むような優しさ。きっと母親から受け継いだのだろう。父親から、エクソシストとしての力を受け継いだように。
だからだろうか。玲奈は心の内を、今初めて出会ったばかりのリラに、打ち明けてしまう。リラに話せば、心が落ち着くのだと、根拠なく玲奈は思ってしまっているのだ。
「大丈夫。そういう時は、ゆっくり深呼吸をして、心を落ち着けるの。きっと大丈夫です」
根拠なんてないものだ。もしかしたら、悪魔祓いの折に、リラ自身そうやって、心を落ち着けるのかもしれないけれど。
リラの言葉はとても優しく、玲奈の心に入ってくる。優しい言葉。
大丈夫だと。心はもろいけれど、強い部分でもあるのだから。誰にも心を侵略し、壊す権利などないのだから、と。
根拠なんてなくて良い。
玲奈はそれで安心できるし、リラは優しく包んでくれる。
そう、それで良いのだ。
「ねぇ、私と同室になってくださらない?リラとなら、やって行ける気がするわ」
玲奈の口から、自然と出た言葉。
つい先ほど、けんか別れしたばかりの時に思っていた、自己中心的な心は忘れ去っていた。
ただただ、リラと一緒にいたいと、玲奈は思ったのだ。
そして、リラは間をおかずに頷いてくれた。
「ぜひ」
と。
美南玲奈とリラ・川口・リュードリヒの共同生活は、今ここから始まった。
特殊学校の中で、理解し合えるかどうかが難しい、超能力者と霊能力者の新入生が、理解し合える相方を見付けだした瞬間でもあった。
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