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流れゆく風 ④
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「おかしかっただろ?」
寮の部屋に戻って、圭吾は恭へと話す。
まだ笑いの余韻が残っているらしく、肩が震えたままだ。
「いつもあんな感じなのか?」
問いかけた恭は、未だ茫然としている。
「俺が見た範囲なら、あんな感じばっかだったかな。負けるのが違ったりする程度で」
そんなにまだ見てはいない。
それでも教員室でも繰り広げられている、あの漫才めいたやり取りは、何度か見ている。
いつもいつも、笑わないでいるのが難しかった。否、実際に笑ってしまっていたが。
教師陣も、笑いを耐えることをしない。あの二人が言い合いを始めると、すぐに笑いが広がるのだ。
それに対して、二人は怒りもせずに、二人してニッコリ笑ってのたまってくれるのだ。
「人生、楽しくなければいけませんよね」
「楽しいことが、一番良いよね」
と。
つまりは結局のところ、二人が楽しんでいるから、周りも笑っていられるのだ。
そうでなければ、頼むからけんかだけはしないでくれと、理事長共々教師陣すべてが、二人に頭を下げなければならない。
「あの二人ってさ、教師の中でもトップの力持った、霊能力者なんだってさ。あ、それは恭はわかるか。どっちが強いとか、俺にはさっぱりわかんないけど。その二人がさ、あんな風にじゃれ合ってたりしたら、面白いし、楽しいって以外に感想ないだろ?」
超能力者の圭吾にとって、二人の能力の差なんて、わかるものではない。そしてラミュエールと名乗った方は、実は闇に属する力が強いということを、露ほどにも思っていないだろう。
恭はたしかにラミュエールと名乗った教師も、黒髪教師も力が強いのはわかる。どっちが上かはまったくわからないが。二人とも、恭より力が上なのだ。力が上な二人の力量を、恭が推し量れるものではない。
「じゃれあってって……たしかにそう見えたけどな。本気でけんかされたら、即刻逃げないと死人出るだろうし」
恭は毒気を抜かれたように、自分のベッドに腰掛ける。
すごい教師が……というより、すごい霊能力者がいるのだな、と再確認したのだ。黒髪教師を見て。
「恭、大丈夫ですか?」
問うたのは青海。
「大丈夫。ちょっとあてられたけど。黒髪の先生の力が、相殺してくれたから。なんとか」
闇に近いラミュエールのオーラに触れて、恭自身が揺らいでしまったのだ。
恭の能力で言えば、取り込まれてしまっていても、不思議はなかった。
そうならなかったのは、ラミュエール本人に取り込む意思がなく、意識して闇の力を押し込めていた為。と、青海が近くにいた為。それから、黒髪教師が後からとはいえ、来てくれたおかげでもあった。
さらに言えば、圭吾の何者にも染まらない、強い正のオーラが今近くに有ることも、恭にはありがたいものだった。
「え?何?恭、どうした?」
驚いた圭吾が、恭と青海を見る。
わからないのは、当然だろう。
「あのラミュエールと名乗った教師。あれは半分闇の住人だから。俺は闇の正反対、光の中に在り続けなければならない、守龍の主で。相反する力が交差すれば、弱い方が取り込まれる。ラミュエールより、悔しいけど今は俺の方が弱いからな。あてられて、少しだけ気分が悪い」
恭は誤魔化さず、正直に話した。
この学校にいるのなら、これは常につきまとうことにもなる。その場合、圭吾に理解していてもらった方が、何かと良いだろうと思ったからだ。
「マジ?ごめん。俺そういうの、全然わかんなくて。何か飲み物とかいる?」
笑いの発作を一瞬にして引っ込めた圭吾は、恭の傍へと歩み寄る。
「否、どっちかと言うと、お前がここに居てくれた方が俺には楽だから、出来れば部屋にいてくれ。少し寝る」
飲み物が欲しいと言えば、圭吾は近くに有る自販機まで買いに走ってくれるだろう。
簡単に飲み物を淹れられるようにしようとは話しをしたが、まだケトルなどは買っていない。ので、買いに部屋を出て行くしかなくなるのだ。
けれど今は、圭吾の正のオーラが近くに有る方が、恭の気分は良くなる。本人は全く気付いていないだろうが。圭吾の持っているオーラは、全く歪みのない純真な正のオーラだ。負のオーラが近くに有っても、絶対に取り込まれない。そう言い切れるだけのオーラを持っている。それだけ心が強いとも言い換えられるだろう。
そんなことを思いつつ、恭はベッドに沈み込んだ。
「うわぁ。こういうことって有るんだな。悪かったかな、全く気付かなくて」
恭に春用の軽い上掛布団をかけてやりながら、圭吾は言う。
心配とデカデカと顔に書いた圭吾は、オロオロと恭と青海を交互に見ている。
「滅多に無いことです。だいたいは私が遮断するのですが。今回は油断していました。この学校に、教師として闇のモノがいるとは、思ってもいませんでしたので。……言い訳でしかないですね。すみません」
圭吾に向かって青海は言う。
青海自身しまったと思っていた。けれどそれは、圭吾が謝るべきことではないのだ。
「あおのせいじゃないと思うんだけどなぁ。俺はヴァンパイアです。って言ってる教師の言葉を聞き流してた、俺にも責任有ると思うし。というか、そういう闇の住人?を雇った学校側に、責任があるんじゃ……」
うーん。とうなる圭吾。
そうか、ラミュエールは、本人が言っている通りのヴァンパイアで、闇の住人なのか。とやっと認識し、それでも何故そういったモノが学校にいるのかと、頭をひねる。
「ちょっとだけ訂正な。あいつは半分が闇の住人。半分しか闇じゃないのに、遮断できなかったのは俺の失態で、あおに責任は無い。そこは圭吾の言うとおり。闇の住人雇ってんのは、学校側に何か思惑でも有るんじゃないのか。慣れさせる為とか、色々」
布団から顔を出し、まだ寝てなかった恭が言う。
実は学校側にそんな思惑はないのだが。それは恭たちが、知ることはできない。
恭はラミュエールを、闇の住人だからと排除する側に回りたくはない、と思っていた。あの黒髪教師が、彼を容認していることもあるからだ。それに何より、あのラミュエールという男は、恭の力と自分の力の差の加減を見て、最大限に闇の力を抑え込んだ上で接触してきたと思う。
あの時、自分でも言ったとおり、闇の住人すべてを滅ぼすという考えを、恭は初めから持ち合わせてはいない。光と闇が居るからこそ、成り立つ世界。その世界の在り方を、能力者として崩してはいけないのだと、恭は知っているのだ。
「寝てろって。夕飯には起こすから。なるべく近付かないようにしてた方が良いんだろうな、ラミュエール先生には。恭は気を付けとけよ。俺は鈍感なのか?全然大丈夫なんだけど。大変なんだな、霊能力者って」
鈍感だから大丈夫なわけではないのだが。恭はその説明はする元気がないので、圭吾に言われたように、気を付けるべきは自分だろうと考える。
疲れと緊張により、強張っていた精神を解放して、恭は眠りについた。
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