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灯火の朱 暗闇の焔 ③
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「七不思議が、有ります。学校の地下に魔物が棲んでいるという……」
言うべきか否か、迷いながら忍は口に出した。
「七不思議?この学校じゃ、七不思議じゃ終わらないんだろうけど。にしてもさ、この学校、地下なんて無いでしょう」
ラミュエールが、心底不思議そうに言う。
たしかに、この学校では、七不思議では終わっていない。そもそも、不思議と言うが、正体はわかっている物ばかりだ。
今の論点はそこではなく、魔物が居ないはずの学校に居たことなのだけど。
「居てはいけない場所に魔物が居た。ただ唯一の不思議ですよ」
中条はラミュエールに答えるように言葉をかけた。
そうだ、唯一の不思議なのかも、しれない。忍は中条の言葉に、そう思った。
何かが起きても、精霊の仕業で。その精霊もすぐにわかるし、不思議のままにはならない。
何個もポロポロと不思議と出てくるが、不思議になっていないのだ。だから、唯一の不思議。
何故ここに現れ、誰を探しているというのか。
「とりあえずもう遅いから、桐生さんは私と一緒に寮へ戻りましょう。ゆっくり休まなければね」
女性教師は忍の背に手を添えて、歩くのを促す。
忍に警護を付けるということを納得した彼女が、付き添うという申し出だ。
「はい。お願いします」
忍は教師の言葉に素直に頷いた。
まだ自分は庇護を受ける子どもであることを、彼女は納得している。
「さぁ、皆も帰りましょう」
忍がこの場から去ることで、他に集まっていた教師や生徒も、帰途に着いた。
「はーい。忍が無事で良かった」
なんて口々に言っている生徒だが。
本当はわかっている。
居てはいけない魔物がこの学校に居た。
何かが起きる予兆を。
※
「嫌だ嫌だ。ヴァンピーアはいるは、魔物は出るはっ!何なの、この学校!!」
寮へと帰りながら、小さな精霊リーンは怒っている。
「でも、桐生生徒会長が無事で、良かったじゃない」
リラはのんびりとリーンへ答えた。
「何でそんなに呑気なの?!リラ、転校よ、転校!」
リーンは魔の気配に敏感になり、無茶を言い出す。
「転校は無理よ。たしかに魔の者はいるけれど。それ以上にリーンのような精霊も多いわ。何より強い先生方や先輩が、いらっしゃるじゃない」
あくまでも、リラはのんびりだ。
「そうよ。それに魔物は消えてしまったのでしょう?」
玲奈もリラと同じようにのんびりしている。
ここで慌てても意味がないのだと、わかっているのだ。
「消えてしまったものは、追えないわ。今は待つ時なのよ。もっとも、私みたいな超能力者では、役には立たないと思うのだけど」
リーンの魔に対する気持ちは、怖いくらいである。
何しろ、全てが消えれば良いと考えているのだから。
それはたしなめられていたが、今回のことでまた、再燃しているようだ。
「魔物が居るなんて、魔物が居るなんて……」
リーンはまだぼやき続けている。
「だって、魔物よ?!ヴァンピーアについては、一歩譲ったけど、これはダメよ。だって、危害を加えているじゃない。魔物はやっぱり魔物なのよ!人間を糧にしているのよ!!」
リーンは呟き続ける。
「駄目よ。居て良い存在じゃないのよ。今回は誰が出て来ても、許されないと思うわ」
「そうね。先生方も、許す気は無かったみたいですし」
「そうよね。でも私は力が弱いから、リーンが居てくれて助かるわ」
リラと玲奈は、リーンを立てて、宥めるように言う。
実際二人もわかっている。今回の魔物騒動は、ラミュエールというヴァンパイアがこの学校に居る以上に、深刻なことであると。
あの時集まった皆がそうであった。
あの魔物を、許してはいけない。
※
彼の人はドコだ?
何故?
こんなに近くに鼓動を感じるのに……。
何故……。
何故居ないのだ……。
もっとも近い力の持ち主は違った。
ならば、どこだ……?
どこに行ってしまったのだ……。
探しても、見付からぬというのか?
それはあり得ない!
彼の人は私と共に居たいと、考えてはくれていないのか……。
だから見付からぬ?
そんな馬鹿な!?
あり得ない!!
彼の人と在るのが、私の本来の姿なのに……。
※
「消えたな」
恭が学校の方を見ながら言う。
「あぁ、学校の方やったな」
良二も神妙に言葉を返す。
二人の霊能力者が感じた、強い不快感をもたらすモノの力。超能力者二人はわからず、恭と良二を見ているだけだ。
魔そのものの力。
「ね~ね~、こんな七不思議知ってる~?学校の~地下に魔物が居る~、んだって~」
霊能力者二人のどこか緊迫した状態を打ち破るかのように、陸也が声を出した。
「「は?」」
恭と良二の二人は振り向いて陸也を見る。
「だ~か~ら~、その魔物じゃないの~かな、とか~。二人とも~、嫌な気配感じたんでしょ~?」
陸也の主張。
「そんな七不思議が有ったのか」
恭は静かに考えている。
「てか、七不思議で終わらんやろ。このガッコ」
良二が感じた違和感を考えるよりも、別の方向に話しが行きだす。
「論点が違う」
考える所はそこではない、と恭が言うが、
「俺が数えただけでも、十一個有ったからな。というか、不思議とか言う割りに、不思議になってなくて、正体わかってるのばっかみたいだけど」
圭吾がさらに論点をズラして行く。
「圭吾……」
ズラされた論点に、脱力した恭がうめく。
「まぁ、まぁ~。そんな~魔物が居たんなら~、先生たちが何とかしてくれるんじゃあ、ないのかなぁ~?」
のんびりゆったりと、陸也は言う。
魔の気配を感じないから、だからこそのゆったり感なのか。否、いつもどおりなだけだろう。陸也が慌てているというのは、見たことも聞いたこともない。
「そうだろうな」
「せやなぁ」
恭と良二は納得して頷いている。
見に行ってない所で、考えていても仕方ないのだ。
その場に行かなかったから、余計に何もわからないのだ。
わからないのに、議論しても何もならない。
「魔物?かどうかよくわかんねーけど。消えたの?」
感知してないからこそ、わからないと圭吾は恭と良二に問いかける。
「消えた……というか、どこかに潜んでいそう、って感じだな」
「俺もそう思うで。今は気配が消えただけ、っちゅう感じや」
滅されたわけではないのだと、二人は圭吾に答える。
「え~、何かぁ~、恐いですね~」
消えた気配を、追っている教師はいるのだろうか。
得体のしれないモノは、まだどこかに潜んでいると言われて、陸也が情けない声を上げた。
「お前さっき、先生たちが何とかしてくれる言うてたやんか」
さっきの楽観思考はどうしたんだ、と言う良二。
「そうでしたぁ~。先生は~やっぱ強いんだろうしぃ~。上級生の人たちもぉ、強いですよねぇ~。それに~、良二も恭君も~強いですもんね~」
陸也はまたも、楽観的な思考に落ち着いたらしい。
簡単に考えているようだ。
それは、見に行かなかったからこそ、かもしれない。
「当たり前だ」
恭は持ち前の強気発言をする。
「せやけど、何や強い気配やったで」
良二はどこか不安そうにしているが。
「弱気発言禁止令」
圭吾が一言、良二に向かって言い放つ。
「何やねん、それ」
「だぁって~、弱気発言されるとぉ~、余計に恐いじゃあないですか~」
受けた良二の不思議そうな顔に、圭吾ではなく陸也からの返事。
「そういうこと、そういうこと」
圭吾は頷いている。
感知出来ないからこそ、霊能力者よりも超能力者の方が、怖い思いをしているかもしれない。
だが、不快な魔の力を感知したからこそ、その得体の知れなさに怖さを感じているのが、霊能力者だ。
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