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灯火の朱 暗闇の焔 ④
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びっくりした。何が起こったのかと思った。
忍は部屋に帰り、考える。寮の部屋の結界は、付き添ってくれた教師が張ってくれた。朝も迎えに来てくれるそうだ。
自分はまだまだなのだと、思い知った。
庇護される子ども。
タイムリー過ぎて、少し恐さも有る。あんな紙が、何故わざわざ生徒会室に置いてあったのか。
考え過ぎだ。魔に触れたせいで、ナーバスにもなっているのだろう。
何でもない。そう、きっと、何も有りはしない。
あの紙だって、多分誰かの悪戯で。そう、ただ唯一解明されてない不思議だから、解明して欲しいというだけの、誰かからの生徒会へのメッセージで。
今日はもう早くに寝てしまおう。
さっさと忘れてしまえ。あんなこと、そうそう起こらない。
部屋の相方が、点呼には応じてくれるだろう。
帰って来た時に、彼女は自分を案じてくれて、休めるようにと、静かにしていてくれている。
何が有ったかは簡単に話したし。護衛の先生が付いてくれることも話したし。
先生方が、きっと対策を練ってくれる。
自分はまだまだ、庇護される子どもで。力は生徒の中では強いと言われても。
庇護されているからこそ、まだこんな事案には対処できる考えも浮かばない。
ここは力を制御できるようになったり、その力で出来ることを知ったりするだけの学校。
特殊機構に就職が多いとは言っても、その特殊機構で働く前にはその為の学校に入る。ここは訓練所ではない。だから、庇護されるのは普通。
先生たちの中には、こういった学校が無かった為に、苦労したという人たちもいる。
この学校が有り、庇護されること。こんな幸運は無いだろう。
先生たちは、年齢の分だけ苦労をしていて。その分だけ、こういったことへの対処方法を知っている。
自分が悩んでも仕方ないことだ。
あの魔物が、一番に自分を選んで、良かったではないか。
他の生徒に、特に一年生に被害が無かった。これを良いことと言わずどうする。それに、自分も生きているのだ。あの時魔物が廊下を気にしたのは、きっと駆けつけてくる人たちに気付いたから。駆けつけてくれた人たちに、感謝しなければ。
それから、あの魔物が探している人物探し。
これは生徒会長の自分も出来ること。生徒名簿を、見ることが出来る立場に自分は居るんだ。だから、探せる。
誰かが犠牲にならない為に。自分が出来ることをしたら良いのだ。
※
どこだ?
どこに居るんだ?
彼の人はどこに……。
見付けだせない?
そんな訳はない!
彼の人の鼓動を、こんなにたしかに感じているのだから。
探し方が悪い?
そうかもしれぬ。私は長く、何もしなかったから、力の使い方を間違えているかもしれぬ。
それでも、忘れれぬ気配は、強く濃く、感じているのだ。
だから、探し出せる。
あんなに慈しんで、愛した人だ。
わからぬ訳がない。
あんなに幸せの日々を、共に暮らしたのだ。
わからぬ訳がない。
彼の人も、気付いてくれる。
そう信じる。
だから、待っていてくれる。
そう、信じている……。
※
「お前ら、もう点呼時間迫ってるぞ。戻った方がよくないか?」
恭は未だに部屋に居続けている、良二と陸也に声をかける。
「そ~ですね~」
「あかん!時間忘れとった!!」
相変わらずな陸也を引っ張り、良二が慌てて部屋を出て行く。「また明日」と言い置いて。
「しっかし魔物ねぇ。入寮からしてやっかいだったのに、波乱万丈な高校生活だな」
圭吾はポツリと呟いた。
「そうだな」
のんびりと恭は答える。
この学校で、ゆっくり出来る時間というのは、少ないのかもしれない。
それならば、今のんびりするべきだろう。
「案外、陸也の言ってた変な感じって、その魔物かもな」
「結構な力を感じた。それなのに、今はどこに居るのかさえ、解らせない。あり得るかもしれないな」
唐突に現れて、今は気配すら感じさせない魔物。
「恭と圭吾は、私がしっかり守りますよ」
ふわりと現れた青海が、二人に声をかける。
どうしてだか、二人になってから、やっと姿を現した青海。
恭が何も言わないから、居たのだろうが、圭吾にはわからないので。
「俺もいるからねぇ」
雷葵は、今まで静観して四人を見ていた。
恭以外に興味深々で有ったのだが、それは恭からの呪縛によって、話しかけられなくされていた。
「雷葵には、あまり期待してない」
恭は冷たく雷葵に返す。
「ひどっ!」
と言っているものの、雷葵もわかっているのだ。
あの魔物が、自分を簡単に消すだろう力の有るモノだったことを。
「そうかぁ。恭には力強い味方が二人も居たなぁ」
圭吾はゆったりと頷いている。
力の差などわからないのだから、その反応は普通だ。
「ね、ね。俺も戦力になるよねぇ」
雷葵は笑って圭吾に言っている。
たとえこの身が消えることになっても、恭のことを雷葵は守りたいのだ。
「あまり無茶をするなよ」
恭はわかっている。わかっていて、雷葵に言うのだ。
お前がいなくなることは、許されないと。
「あお?どうかしたのか?」
考え込んでいるような、幼い頃からずっと傍にいてくれている龍神に、恭は視線を移す。
「いえ……考え過ぎですね。何も無いですよ」
青海は穏やかに微笑んで、静かに恭に返事をした。
コンコンコン
「点呼でーす。泉君と藤君いますか?」
「はい」
「居ます」
「はいはい。他の部屋の生徒とか、居たりしないですよね?」
「居ません」
「はーい。では、おやすみなさい」
点呼の先輩は事務的に終わらせて、さっさと隣の部屋へと移動して行った。
就寝時間になる。
別に起きていても問題は無いのだが。明日も学校なのだから、夜更かしはよくないだろう。
恭と圭吾は点呼に答えてから、ベッドに入った。
一部の生徒に暗雲をもたらしてはいるが、おおむね平穏な寮だった。
※
忍は夢を見ていた。
寂しい場所に、ポツンと建っている一軒家。
子どもと母親の二人暮らし。
忍は二人を見ながら、その母親が自分自身だと、何故か直感していた。
何故だ……。
とても寂しい場所なのに、二人が幸せであると、何故かわかった。
どうして……。
一人の精霊が、二人と共に居た。
あの魔物と同じ顔をしている。
けれど、魔物の気配はなく、負のオーラもなく。光の存在であると示すオーラを持った、精霊。
子どもは精霊にとても懐いていた。
「柳(りゅう)」
と名付けて。
精霊も子供をとても慈しんでいた、愛していた。
とてもとても幸福な家庭。その存在。幸せな風景。
あの魔物とは、かけ離れている精霊。
同じ顔をした、別人?
否、違う。
同じ存在だ。
確信できてしまう忍。
何故、どうして、わかってしまう。
この風景を、忍は知っている。わかっている。
どうしてだ?
決して今ではない。遠い遠い昔である、と。
あの魔物は、最初から魔物であった訳ではなく、後から魔物になったのだ、と。
納得している忍。
何だというのだ。
何かの前触れであり、何かの予兆であり。
何者であるかを、考えろと示す夢。
あの魔物に接触した為だろう。思い起こすように、夢を見ているのだ。
それならば、あの魔物が探しているのは、あの子どもだ。
自身の子ども。
だからか。あの魔物が一番に自分に接触した理由。
わかってしまった。理解してしまった。
探しているのだ。
あの愛して、慈しんだ存在を。
もう一度、あの手に触れたいのだ。自分のものにしたいのだ。
だが、アレはもう精霊ではない。魔物だ。
ならば、自分は過去の自分の子どもを、守らねばならないだろう。
どうしたら、彼を見付けられる?
今生、男か女かもわからない。でも、きっと会えばわかる。今の自分なら、きっと。
あの魔物に敵わなくとも、子どもに警戒を促すことは、できる。
どうして、この幸福な風景は壊れ、精霊は魔物へと姿を変えたのか。
いつか、思い出すかもしれない。この風景を見るように。でも、思い出さないかもしれない。思い出すことが、良いことだけではない。
≪……ょう……愛してます≫
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