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教師の思惑 ※ ①
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「今日は何か知らないけど、また窓ガラス割れたんだってね」
いきなり現れたラミュエールに、正はうんざりした目を向ける。
「何だい。ひどいな、その目は」
「いえ、どうしてこうも私が寝ようとする時に、現れるのかと思いまして」
あれから何度もラミュエールは、正の部屋にやってくる。
決して許している訳ではないのに、どうしても敵わない。そのことに正は少しうんざりしているのだ。
「んー?ほら、正今何してるかなー、って声に出して言うとね、瑠伊がたまーに答えてくれるんだよね。だからじゃない?後は愛故にわかるってね」
ラミュエールは少し首を傾げて正に答える。
「私の式を逆監視にしないでいただけますか。あと他のことについては、聞かなかったことにします」
ラミュエールの考えが、正には理解できない。だから、彼の言葉をそのまま正は鵜呑みにはしない。
「素直に聞いちゃえば良いのに。そういうこと、わざわざ言うことでもないからね。いい加減、俺のこと信用しない?」
「しませんよ」
ラミュエールの言葉に、正はたった一言で答える。
「ひどいなぁ」
そう言いながら、ラミュエールは苦笑している。
「そころで、窓ガラス割れたと言ってましたが、けが人とか居なかったのですか?それほど大きな騒ぎになってはいませんでしたよね?」
知らないことだったと、正はラミュエールに向き直る。
「あぁ、あんまり騒ぎにはならなかったのは、生徒会長の桐生だっけ?彼女と保健委員長が動いたからみたいだったけど。俺もそんなに詳しくは知らないよ。というか、話しのネタ程度に聞いただけだしね」
言いながら、ラミュエールは正に近付く。そんなことはどうでも良いと言いた気に。
「……っ」
逃れようと体を動かした正の腕を引いて、ラミュエールは簡単にベッドに押し倒す。
「俺はちゃんと色々守ってるよね。で、そろそろ俺のこと、シアンって呼ばない?」
飄々とラミュエールは言う。
「名前は……」
「縛れないってわかってるくせに。俺の名前、そんなに呼びたくない?」
正の躊躇をさっくりと切り返すラミュエール。
生徒でさえ、仲良くなればファーストネームで呼んでくるというのに。この同僚はいつまで経っても、ファミリーネームでしか呼んでこない。
「一番短い呪なんですよ?簡単に呼ばせるものではありません」
闇に近いラミュエールだからこそ、正は彼を名前で呼ばない。
縛ることなど出来ないとわかっていても、どうしても譲れないと言うように。正の瞳が、強い意志を持ってラミュエールを見据える。
「真名(まな)は遠い昔に無くなってるからね。俺は真名を持ってない。正は有るのかな?」
ラミュエールのような存在の場合、縛るのは真名と呼ばれる隠された名前。
また人間もそれは同じだ。
「有りませんよ。もしかしたら、有るのかもしれませんが、私は知りません」
自身が知らない真名など、意味の無い物だ。だが、真名を知っている人間が居れば、確実に縛られる。
正の家は古い家系だ。真名を産まれた時に付けられていたとしても、おかしくはないのだ。
だがそれは聞く機会もなく、正は家を離れた。もしかしたら、一番下の弟なら、真名を読み取れるのかもしれないが。聞いてないのだから知らないのだ。
「真名が有るかもって、ヤバいんじゃないの?大丈夫?」
ラミュエールは苦笑するしかない。
真名について、そんな曖昧で大丈夫なのかと。
「知っているとしたら、父と母です。もう会うつもりもありませんから、問題は有りません」
彼らから離れる為に家を出た正。だから、二度と会えないと、二度と会う気は無いと、家を出たのだ。
「向こうが会うつもりが有ったら、大丈夫じゃないんじゃないの?まぁ、真名とか結構忘れられてってるから、無いのかもしれないけどね。確認もする気無いみたいだし……俺が言っても仕方ないか」
さらさらと、正の髪を撫でながら、ラミュエールは呟く。
「確認する術は……有るには有りますが。私のことはどうでも良いでしょう。どいていただけませんか?」
「嫌」
ラミュエールの手を払いのけ、正は険を含んだ声を上げる。ラミュエールにたった一言で切って捨てられたが。
先程正も同じように返しているので、強くは言えない。
「正は闇のオーラ、耐性有るよね。瑠伊がわざわざ俺に結界張ってまで押さえてなきゃ、生徒には辛いっていうのに。あ、瑠伊のあの結界は、正の指示かな?」
生徒たちに悪影響を少なからず及ぼしてしまう、ラミュエールのオーラ。
懲りずに正の髪を触りながら、ラミュエールは言葉を紡ぐ。
「瑠伊にはたしかに言いましたが。私が影響を受けないことは、最初からわかっているでしょう」
体勢も変わらない、手を振り払っても戻ってくる。正はいい加減あきらめてきた。
何を今更なことを、と見上げる。
「んー、珍しいんだよね。多かれ少なかれ、何かしら影響受けちゃうものだからさ。だから余計に正から離れられないかな。貴重なんだよね。一人だけいたなぁ。まったく闇に染まらない人間。ま、今はもう違うけど。自分を解放してられるって、楽で良いんだよ。さすがに職員室もずっと押さえてるとね。辛いんだよ」
普段こんなに抑えて生活してなかったから、余計かなぁなんて言いながら。
「どうして高校教師なんて職業選んだんです?」
そんなことを言うならば、多数の人間相手になんてしなければ良いのに、と。
「うん?日本に来たかったんだよね。てっとり早く衣食住確保しないと、さすがに俺だって生きていけないよ。まぁ、食事に関しては普通の人間と一緒で良いけど。住居はね。俺みたいなのって、身分証に困るんだよね。何年も昔の物は使えないし。その点この高校が一番楽だったんだよ。働く場所も住む場所も有る。働ければ給料が入るから、衣食住が完璧だよね」
町は遠いから、利便性は無いけど。
たしかに、衣食住が手早く確保出来る場所としては、最適だろう。正もその理由からここに居る。
正は家を出たかった。だからここに来たのだが。
「信用するしないはさ、どっちだって良いんだけど。俺はそう簡単に居なくならないよ。消えない。何を怖がってるのかはしらないけど、人間と馴れ合えないなら、俺みたいなのでも良いんじゃないの?寿命は有るけど、人間みたいに短命じゃない。置いて行かれるのは俺の方だよ。正はさ、誰かによっかかって良いんだよ。もう少し、周り頼りなよ。教頭でも良いし。あの人頼ってここに来たんでしょ?その人くらいもっと頼ったら?ここの教師陣だって、そんな簡単に倒れる奴らじゃないよ。まぁ、正が一番強いことに変わりはないんだけどさ」
のらくらとしているようで、よくよく正のことを見ているラミュエール。
「正は正で、息苦しい生き方してるよね。俺はもっと自由で良いと思うんだけど。俺みたいに悪影響及ぼしちゃう訳じゃないんだからさ」
ラミュエールの息苦しさは、人間の中に生きているから仕方ないのだ。それを選んだのはラミュエール自身だ。
けれど、正は違う。違うのに、わざわざ自分で息苦しくしている。そこがラミュエールには理解出来ない。
「食事が、人間の物と同じで良いなら、わざわざ私のところに来なくても良いでしょう」
正は話しを逸らす。深く追求されたくないのだ。
「それとこれとは、別。正が居るからいけない。どうしたって、欲しくなる。飢えと渇きを癒してくれる相手が居るのに、欲しない訳ないでしょ。そこにつ1いては、本能に忠実なんだよね。俺は」
ニッコリ笑ったラミュエールに、正はゾクリとする。
獲物と捕食者。ふと正の頭にそんな単語が浮かぶ。二人の関係は、そうであるとでもいうように。
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