アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
夏休みがやってくる テストの話
-
「圭吾く~ん。すごいですね~!テストの順位発表見て来たよ~」
教室に入ると、陸也がゆったりと寄って来た。
圭吾は順位表は見ずに教室まで来たので、首をかしげているが。
「もう~、ま~さ~か~、見てないんですかぁ?」
反応の薄い圭吾に、陸也がプクッと頬をふくらます。
順位発表は上位十五までの発表になっている。こう言って来るということは、圭吾は十五位以内に入っていたのだろう。
「あぁ、見てないけど。十五位以内に入ってたんだ?」
何てことなく返した圭吾の返事に、陸也が腕を振りながら、どこか興奮気味になる。
「ち~が~い~ま~す~!圭吾君一位だった~です~!しかも~、ほぼ満点~!」
どこか興奮気味になりながらも、陸也の言葉は間延びしているから、ゆったりとしか感じない圭吾。
それ故に、言葉の意味をしっかり理解するのに時間がかかるのだが。
「マジか」
ポツリとこぼした圭吾の言葉を、陸也はしっかりと拾う。
「今度から~、テスト前は~、圭吾君に~勉強見てもらいたい~です~」
今回は良二と一緒にテスト勉強をしていたが、二人とも同じところで躓くので、はかどってはいなかったと陸也。
「え、や、まぁ。一緒に勉強するくらいなら」
今回だって、恭と一緒に勉強をしていた。だから、二人での勉強が、四人での勉強になっても、さほど変わらないだろうと圭吾は思っている。
問題は、恭がそれを許可するかどうかなのだが。良二に押し切られそうではある。
「恭君も~、九位だった~です~よ~」
「お、恭も良いトコ行ったじゃん」
「僕も~良二も~張り出されるまでに~到達してないんですから~。う~ら~や~ま~しぃ~」
にじり寄ってくる陸也に、圭吾は苦笑する。
「陸也の言い方だと、うらめしや~に聞こえるから止めてくれ」
笑いそうになるのだと。圭吾は思う。
「恨めしいです~。だから~そう聞こえても良いですぅ~」
開き直った態度の陸也に、圭吾は笑いを耐えられず笑い出した。
のんびりゆったりと話す陸也との会話は、圭吾の中では一種の癒しになっている。
だから圭吾は、陸也はこのままで良いと思っているのだ。恭はこののんびりペースに苛立ちを覚えているようだが。
良二が一緒にいられるのも、自分と同じで一種の癒しを感じているからだろうと、思っている圭吾。
それに陸也はのんびりまったりとしながら、とても広い心を持っていると圭吾は感じてもいる。恭が苛ついていようが、言葉がキツかろうが、気にしていない陸也はすごいとも思っているのだ。
広い心を持っているから、些細な事には動じない。だから陸也は、こんなにのんびりまったりなのかもしれないな、と圭吾は思った。
「次のテストは~、絶対に~、圭吾君と~恭君の部屋に~突撃~しますから~。良二も~一緒に~」
言っていることは結構物騒なのだが。言い方故か。あまり危機はない。
まぁ、テスト勉強に来るのだから、危機感を感じるものではないけれど。
「ま、良二も一緒なら、恭を押し切れるだろうから、俺は良いぞ」
陸也一人で来たら、恭に追い返されそうではあるが。さっき圭吾自身思ったとおり、良二も一緒なら押し切れると、陸也も思ったのだろう。
あちこちで、今日張り出されたテストの順位の話しをしているクラスメイトたちもいる。中には圭吾を見ながら「さすが新入生代表」とか言っている声も、圭吾には聞こえてきた。
その後先生がやって来て、ショートホームルームが始まったので、圭吾と陸也の会話はそこで終わったが。
ショートホームルーム後、また少しざわざわしたものの、一時間目はすぐに始まる。
英語教師のラミュエールが教室に入ってすぐ、生徒たちは落ち着いて座っていた。
「それじゃ、テストを返します。三十点以下の人たちは、明日の放課後に再テスト。再テストの合格点は五十点ね。で、合格出来なかったら、夏休みは補習。ちなみにこのクラスの平均点は七十八点。良い方だよね」
テストを返すと言ったラミュエールが、次々と生徒の名を呼んでいく。
圭吾の名前は、全く呼ばれなかった。
あれ?と思いながら、ラミュエールを見続ける圭吾。
「じゃあ、これが模範解答ね」
そう言って、黒板に張られたのは、圭吾の答案用紙だった。
「百点だったのは圭吾以外にもいたけど、筆記体が一番綺麗だと思ったから彼の答案用紙。後の時間使って俺にでも彼にでも、他の点数良かったクラスメイトでも良いから、質問して。とにかく再テストの人たちは勉強してね」
ラミュエールは特に問題一つ一つに対しての、回答の埋め合わせをするつもりがないようだ。
何人か百点だった生徒や、それに準ずる生徒の名前を挙げる。これだけいれば、質問したい人間に対しての回答人数は足りるよね、と。
「玲奈はおしかったね。簡単なスペルミスだ。次からは、単純ミスなくしてね。せっかく英語綺麗に話せるのに、書くことでミスは駄目だよ」
玲奈はよく授業中に、ラミュエールとの英語会話をしてみせる。
だからだろう、ラミュエールが彼女に言葉をかけたのは。
「はい。気を付けます」
玲奈は自分の回答欄を見て、すでに何が間違っていたのかを確認している。
殊勝に頷いた彼女に、ラミュエールは笑みで答える。
「じゃあ、わからなかった所がある人は、黒板の回答用紙見て記入するか、他の人たちに聞いて。もりろん俺もちゃんと答えるよ」
黒板に殺到すれば、見える人が少なくなることを考えての、回答人数をしっかり発表したのだろう。
何人かが黒板に行ったり、クラスメイトの元へ行ったりと動き出す。
もちろん陸也は圭吾の元にやって来た。
「再テストは免れた?」
圭吾の元にはテストの問題用紙しかない。
が、答えられないことはないので、のんびりと構えている。
「免れましたけど~、平均点も~行ってないですぅ~」
陸也は答案用紙を隠しもせずに見せてくる。
しばらく陸也に教えていたが、先に黒板で回答を埋めるだけをしたクラスメイトが寄ってきた。
「悪い。俺にも教えて」
再テストなんだよ、と。
「良いぞ。単語は暗記するしかないから、長文問題だな」
陸也から視線を外し、そのクラスメイトに向き合った時、何人もがそこに入ってくる。
「俺も再テスト組だから。藤に聞くのが一番だろうと思って」
と言った一人に、他が頷く。
ちらりとクラス内を見渡すと、どうやら美南玲奈の元には女子が、圭吾の元には男子が殺到しているらしい。
再テストではないメンバーは、他に分散しているようだが。
しかし、教師であるラミュエールは暇そうである。
どこかしら、ラミュエールに近付きがたいと、本能がわかっているのかもしれない。
「良いけど、書ける場所有るか?」
周囲の机をくっつけてみたり、椅子を持ってきたりして、何とか場所を確保する。
「僕は~だいたい大丈夫だから~、ラミュエール先生に~後は~聞いてくる~」
再テスト組の真剣さに、考えることがあったのか、それとも暇そうなラミュエールを見たからか。陸也はその場を後にして行った。
圭吾は長文問題の解説に入ることにして、陸也には「ありがとう」と言葉をかけた。
本能で皆が避けてしまうラミュエールを、恐れもしない陸也はすごいなと圭吾は思う。
そう思っている圭吾も、ラミュエールを恐れてなどいないのだが。
「俺もちゃんと答えるって言ったのにね。来たのは日野だけかぁ」
苦笑するラミュエールは、人間の本能はすごいものだ、と感心していたりする。
捕食者で有ることを、どこかしらで察知して、避けるのだろう。
「ラミュエール先生は~、何か近寄ったら怖い~ですよ~」
これでも抑えているし、瑠伊の結界も有るんだけどなぁ。とラミュエールは心の中で嘆息した。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
37 / 40