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タイムカプセル #5
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「竜の木?」
修も淳一の近くに寄っていく。
「うん。竜の木はすごいんだよ。」
「どうすごいの?」
雅範が目をキラキラさせて、淳一に詰め寄る。
「広い所に、1本だけしか生えてないらしいんだけど、
その木に……カブトムシがい~~~っぱい!」
淳一は両手をう~んと広げて、どうだと言わんばかりにみんなを見回す。
「すげぇ!」
雅範は目をまん丸にしてさらにキラキラと輝かせる。
「すごい!」
智も目をウルウルさせて頬を上気させる。
「カブトムシ…。」
修もまんざらではない様子で、淳一の話を聞いている。
「1本しかない木に、カブトムシがいっぱいなんてあり得ないよ。」
和哉が今までやっていた宿題のノートをパタンと閉じる。
「そんなことないよ。兄ちゃんが言ったんだから、間違いないよ!」
「じゃ、そのカブトムシはどこから来るんでしょうね?」
和哉が信じられないというように溜め息をついた。
「そんなの、わかんないよ!でもいるんだよ!カブトムシ!」
「カブトムシなんて、東京で、しかも野生でいるわけないでしょう。」
「いるよ!絶対いる!」
淳一が立ち上がって、和哉を指差した。
「行ってみればわかるよ!今度の土曜日、みんなで行くからな。」
「うわぁ!楽しそう♪」
雅範は両足でジャンプする。
「どうやって行けばいいのか、道はわかってるの?」
修は机の上から地図を取り出す。
「え?え……土手をずっと行けば…。」
淳一はしまった!そこまで聞いてない…と思ったが、
ここで知らないとは言えない。
「土手をずっと行くと、海に着くんだよ。」
修は地図を広げてみんなに見せる。
「海まで、どれくらいなの?」
智が地図の上をキョロキョロする。
「う~ん、どれくらいかな…結構あるね…。」
「俺達がいるとこはどこ?」
「……この辺り…かな?」
修が地図の右端を指差す。
「ここから、海までの間にあるんですよね?」
和哉が言葉を挟むと、淳一はムッとして答える。
「そうだよ!絶対にあるから!」
二人は顔を近づけてにらみ合う。
「なんか、楽しいね♪土曜日だよね?おにぎり、持ってく?」
智がニコニコ笑ってそう言った。
決行の土曜日。
集合場所はいつもの公園だ。
土曜日のせいか、公園には人影が少ない。
朝10時の待ち合わせに現れたのは、智と修の二人だけだった。
「修君、今日、大丈夫だったんだね。」
「うん…。これ。」
そう言って、修は手に巻いた包帯を見せた。
「怪我!?」
「違うよ。お母さんにつき指したって言ったんだ。」
ピアノを習っている修はそれを休む為に、
突き指したみたいと丁寧にシップまで巻いて、お母さんに嘘を付いた。
「修君、大丈夫?ばれたら怒られない?」
「ん……、ばれたら怒られるけど、ばれなきゃ大丈夫。」
修はにっこり笑うと、智の自転車に目をやる。
「智、自転車買ってもらったの?」
「うん!」
智が嬉しそうにポーズをとってみせる。
茶色のタイヤに黄色の車体がキラキラ輝いている。
「かっこいい。智っぽい!」
修もニッコリ笑って智を褒めた。
「お待たせ~!」
やってきたのは淳一だった。
淳一はやたら大きな虫かごと虫取り網を持っている。
「ちゃんと、虫かご持ってきたね?」
淳一が智の自転車の前かごを見ながら、確認する。
「うん。持って来たよ。」
「言いだしっぺのくせに遅い!」
修が言うと、淳一はフンッとそっぽを向く。
「みんな遅いね~。」
智が学校の方を見ると、
向こうから自転車を爆走してくる雅範が目に入った。
「待った~?」
三人の前で急ブレーキをかけて停車する。
「遅いよ。」
修が文句を言うと、雅範は大きなリュックをパンパン叩く。
「これ、時間かかっちゃって。」
「何が入ってるの?」
智が目を丸くしてリュックを見ている。
雅範はリュックを開けると、一つずつ指差していく。
「うひひひ。まぁ、お菓子でしょ?お菓子でしょ?雨具でしょ?お菓子でしょ…。」
「お菓子ばっかりじゃない。」
修が呆れたように溜め息をついた。
「え?お菓子は300円までじゃないの?」
智が淳一の腕を掴んで眉を下げる。
三人はドッと笑って智を囲む。
「遠足じゃないんだから。」
淳一がそう言うと、雅範が笑って智の肩を叩く。
「俺の、あげるから、ね。」
そこへ和哉がやってきた。
和哉は赤と白の野球のユニフォームを着ている。
「え?カズ、今日野球?野球はどうしたの?」
雅範が聞くと、和哉は肩をすくめて笑った。
「しかたないでしょう?サボりましたよ。」
「でもユニフォーム…。」
「親には野球に行った振りしたんで。おにぎりも作ってもらえるし。」
和哉は片方の唇の端を吊り上げてニヤリとする。
「これで全員揃ったな。」
淳一が一人一人、顔を見て確認する。
「じゃ、出発しますか?」
「うん。」
智がにっこり笑ってうなずくと、みんなは一斉に自転車をこぎ始めた。
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