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タイムカプセル #10
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「見たんだよね?」
和哉は淳一の一瞬を見逃さず、詰め寄る。
「え?見てないの?」
雅範も不安な顔で淳一を見つめる。
「見たかどうかは……わかんない。」
「わかんないってどういうこと?」
和哉の視線に淳一は下を向く。
「うそなの?」
雅範がつぶらな瞳をウルウルさせる。
「ジュン君はうそなんてつかないよ。」
智がみんなをたしなめるが、みんなの不安は拭えない。
「でも、わかんないって……。」
修も眉間に皺を寄せて、不安そうにつぶやく。
「……ああ~!!わかったよ。兄ちゃんは見てない!」
みんな一斉に淳一を見る。
「え?それ、どういうこと?」
修が淳一に詰め寄る。
「見てないのにどうして地図かけるの?」
雅範も一歩、淳一に歩み寄る。
「……兄ちゃんはここに来れなかったんだよ。」
「……え?じゃ…地図は?地図はどうやって書いたの?」
修も不安を隠せない。
「兄ちゃんも聞いたんだよ。竜の木の話。
地図は……その聞いた話を書いてもらったんだ。」
淳一は文句があるかというように、顎を上げ、腕を組む。
「本当にあるかどうかわからないじゃないですか。竜の木なんて。」
和哉が呆れて肩をすくめる。
「でも、あったじゃん!」
淳一がくってかかる。
「これが竜の木かどうかわからないでしょう?」
和哉が木に視線を向ける。
みんなも木を見上げる。
青い空に浮かび上がるその木は、想像していたものとは違う。
赤茶けた幹は細く、空に伸びたいくつかの枝は葉もつけず、
生気を感じさせない。
もうすぐ寿命を全うしそうな老木…。
でも、竜の木のような気もする。
違うような気もする。
そもそも竜の木なんてないのかもしれない。
5人はじっと木を見つめたまま、考え込んだ。
蝉の声が響き渡り、青い空に入道雲はもくもくと、
大きな巨人のように5人を見下ろしている。
その入道雲の方から、時々風が吹き、5人の汗を冷やしてくれる。
蝉が一匹、どこからか飛んできて、木に止まると、大きな声で鳴き出した。
「なんか……お腹空かない?」
雅範はそう言うと、リュックからおかしを取り出した。
「うん。お腹空いた~。」
智もふにゃりと笑ってリュックをガサゴソし始める。
修も思い出したようにお腹に手を当て、淳一を見る。
「俺も、お腹空いた。」
淳一も背中のリュックを下ろし、おやつを取り出す。
和哉は黙ってそんなみんなを見ていたが、
小さく息をついておやつを取り出した。
5人はクローバーの上で輪になって、おやつを食べ始めた。
「あ~、それ、俺が買いに行った時、なかったやつ~。」
雅範が和哉のおやつを見て指差した。
「欲しそうな顔してもあげませんよ。」
「え~っ!いいじゃん。少しくらい。ケチ!」
「絶対あげない!」
和哉はフンッとそっぽを向き、おやつを一気に口に押し込んだ。
「あ~~っ!カズのドケチ!」
雅範が立ち上がると、膝の上のお菓子が零れ落ちる。
「何やってんだよ、雅範!」
色とりどりのおやつが修の膝の上に散らばった。
「ごめん、ごめん!」
雅範が急いで拾い上げる。
「フゥ~ッ!3秒ルールね。」
草の上に落ちたチョコを指で挟んで、
息を吹きかけ、そのまま口に入れる。
「食べてたら、拾えないだろ。」
修は文句を言いながら拾ってあげる。
「修ちゃんはなんだかんだ言っても優しいよね~。
カズとは大違い!」
雅範は和哉に向って、ベーと舌を出す。
「いつまでも、同じこと言ってる子供には言われたくありません!」
二人の言い合いを智はニコニコしながら見ている。
そんな智を見て、淳一も笑う。
修は二人の雰囲気に割り込むように、口を開く。
「さて、どうする?さすがに夜まではいられないよ?」
みんな一斉に黙り込む。
そうだった、この木が竜の木かどうかは
夜にならないとわからないんだ…。
智はその木を見上げた。
「そうだよね?暗くなるまでは……無理だよね…。」
智が残念そうにみんなを見回す。
「でもさ、ギリギリまでいてみようよ。」
雅範が智の顔を見ながら、拾ったお菓子をフーフーする。
「せっかく来たんだからさ。」
ニッコリ笑った雅範はお菓子を口の中にポイっと入れる。
「ギリギリまでか…。」
修も持ってきたおやつを一つづつ、
みんなに配りながら、頭をめぐらす。
「帰りはどのくらいかかりますかね?」
和哉は修からお菓子を受け取りながらたずねる。
「そうだな…、来るのにだいたい1時間半くらい?」
修が空を見ながら思い起こす。
「2時間だろ?」
淳一が小さなお菓子を放り投げて口に入れる。
「すげぇ!ジュン君!」
さっそく雅範も真似しだす。
「それは休憩があったから…。帰りは休憩いらないだろ?」
「ん~~、いらない!」
また、お菓子を放り投げて、パクリと食べる。
「ギリギリまでカブトムシ、待ちたいもんね。」
智もお菓子を放り投げて、パクリ。
「すげぇ。智もできるの?俺、1個も入んない。」
雅範がしょげた顔をするが、すぐにまたお菓子を放り投げる。
お菓子は雅範の唇に当たって跳ねる。
「あ~ん、ほらね。」
「ほんと、雅範は不器用なんだから。」
そう言って、和哉もお菓子を放り投げ、口の中へ。
「え?カズも出来るの?やべっ!俺だけ?できないの、俺だけ?」
雅範がみんなを見回す。
「あ、修ちゃんは?修ちゃんはできる?」
「だから、今はそれどこじゃなくて…。」
修はリュックの中から地図帳を取り出す。
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