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ココロチラリ その後 #45
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次の日、昼間の搬入にカズもやってくる。
おいらが初めて賞を取った「Sakura」を展示するのに、
田村さんに高校時代の話をしたら、カズのあの時の写真も一緒に展示した方が、
おいらの軌跡がわかりやすいって言われて。
今日から搬入が始まる。
全体のバランスを見ながら、予定通りの流れになるのか、展示しながら確認していく。
グループ展だと前日搬入で十分間に合うのに。
個展が現実味を帯びてきて、なんだか緊張してくる。
「智!」
聞き覚えのある声に振り返ると、カズが手をポケットに突っ込んで、
ヒョコヒョコ歩いてくる。
「カズ!」
おいらは手を振って、カズに駆け寄っていく。
「どうですか?準備は順調?」
「うん。田村さんが、全部手配してくれるから。」
おいらは笑ってカズを見る。
カズも笑いながら、会場内を見回す。
「まだ、あんまり展示はされてないんですね。」
「うん。今日、明日でやるから、まだ始まったばっかり。」
おいらも会場を見回す。
「……雅範から聞きましたよ。」
カズが静かな声で言う。
マー君……。
「おじさん、ここに来るかなぁ?」
「来るようなことは言ってたけど……。」
「ちゃんと見せてあげた方がいいよ。」
「……?」
おいらが首を傾げると、ちょうど展示し始めた「Sakura」を顎で示して、
カズが笑う。
「あれ、おじさんにちゃんと見せてあげて。
あれには智の想いが詰まってるんでしょ?」
おいらも久しぶりにその絵を見つめる。
おいらが初めて、修君への気持ちに気づいた時に描いた絵。
おいらの想いが詰まった絵。
おいらが振り返ってカズを見ると、カズは優しい顔で笑っておいらの肩を叩いた。
「あれを見た時、思ったんですよ。
ああ、智、本当に気づいちゃったのかって。」
「え?」
「みんなが気づいてるのにね?なぜかなかなか智だけ気づかないから、
このまま気づかなければいいのになぁって思ってたんですけど。」
カズはにっこり笑って、おいらの手を握る。
「ま、仕方ないですよね?あそこまで気づかない方が不思議だったんだから。
来て。」
カズがおいらの手を引っ張って、「Sakura」の隣に展示されている
カズの写真の前まで行く。
「見て。」
カズは一枚目の写真を指さす。
「4人で並んで記念写真みたいに撮ったのに、
何枚撮っても智は少し修ちゃんに寄っちゃう。」
おいらは高校生のおいら達を見つめる。
この頃はまだ修君への気持ちに気づいてなかった。
「この写真も、智の視線は修ちゃんにばっかり注がれて……。」
2枚目の殴り合いの写真。
おいらが心配そうに二人を見てる。
二人とも心配だったよ。
でも……。
「3枚目なんてさ、海で遊んだ時、いつみても、智は修ちゃんの隣にいて。
私、修ちゃんが智のこと追いかけてると思ってたんですけどね、
ファインダー通して見たら、智はいつでも修ちゃんのこと、追ってたんですよ。
もう、この頃は修ちゃんへの気持ちに気づいてたかもしれないけど、
気づく前から、智はずっと修ちゃんを追ってたんですよ。」
カズとおいらは4枚目の写真に視線を移す。
4人の後姿のシルエット。
後姿なのに、おいらが修君を見てるのがわかる。
「そして、この絵。」
カズが少し体の向きを変えて、「Sakura」を見る。
「こんなに想いの詰まった絵、見たことない。」
カズがおいらを見て笑う。
また手を引っ張って「Sakura」の前に行く。
「きっと、おじさんもわかってくれるから。」
「カズ……。」
おいらはカズに抱きついた。
首に両手でしがみつく。
「ありがとう。」
「ふふふ。応援したくないけど、智の悲しい顔は見たくないから。」
カズが優しく耳元で囁いて、背中を撫でてくれる。
「大好き。」
「私も、ずっと大好きですよ。」
おいらはカズの温もりと、昔の気持ちに力をもらって、決意する。
「おいら、おじさんとこ、行ってくる。」
カズから離れてそう言うと、カズはにっこり笑ってうなずいてくれた。
おいらはその日の内になんとか時間を作って、修君のお父さんの会社に行ってみた。
修君のお父さんの会社は東京駅の近く。
個展は表参道だから近くはないけど、おじさんに初日に来て欲しかったから、
田村さんに頼み込んだ。
受付で、名前を名乗って呼び出してもらおうと思ったら、上へ来てくれと言う。
おいらは深呼吸して、エレベーターに乗り込んだ。
修君のお父さんは、広いフロアの一番奥に座っていた。
机も大きくて、えらい人なのがすぐわかる。
お父さんはおいらを見つけると、手で左奥を指し示した。
そっちを見ると、小さな部屋のドアが見える。
会議室かな?
おいらはその部屋に向かって歩いていく。
あんまりこういうとこ、来ないから、周りを見回しながら進んでいく。
たくさんの人が働くフロアは、いかにも会社って感じ。
おいらは部屋の前でお父さんを待つ。
お父さんはすぐに来てくれて、ドアを開けると、中へと促される。
おいらは小さくお辞儀をして、中へ入っていく。
中は会議室ではなく、応接室になっていた。
奥のソファーにお父さんが座る。
おいらはその前のソファーに腰掛けた。
「智君……この間の話なら……。」
お父さんが無表情で、おいらの顔を見つめた。
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