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ココロチラリ その後 #51
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「智君。……とても……とても素晴らしい作品の数々で……。感動した。」
お父さんがおいらに近づき、右手を差し出す。
おいらはそれを両手で受け止め、ぎゅっと握ってお父さんの顔を見上げる。
「幼い頃から見ていた君が、こんな芸術家に成長するとは思ってもみなかった。」
「……ありがとうございます。」
おいらはにっこり笑って、もう一度、ぎゅっと手を握る。
「どれもこれも素晴らしいかった……どの時代も、君の葛藤や苦しみ、
喜びや温かさ、時にはユーモアまでも溢れていて……。」
お父さんはゆっくりと丁寧に話してくれる。
「涙が出そうになる。」
「お父さん……。」
「そして、なぜか、描かれているわけでもないのに、修の存在を感じた。」
おいらはちょっと首を傾げて笑う。
そう、いつでも、おいらの感情の近くに修君がいる。
喜びにも、悲しみにも。
「……おいらの心の中には、いつでも修君がいるから。」
お父さんは、そっとおいらの手を離して、最後のブースの方へ目をやる。
「特に最後のSakuraという絵……胸に染みるものがあった。」
周りでおいら達を見ていた、父ちゃん達も目を細めてうなずく。
「君も、君の才能も……私は認めているし、前にも言ったが自慢にも思っている。
そう、息子のように。」
おいらは、ただお父さんの言葉を黙って聞いた。
お父さんに、おいらの気持ちは十分伝わったことがわかったから。
でも、お父さんは顔を強張らせたまま、表情を変えない。
「本当に……あんなバカ息子と……一緒にいる気なのか?
例え、想いが通じ合っているといっても、茨の道は必至だ。」
おいらは、お父さんを見つめ、大きくうなずく。
「君にだって好きな女性ができるかもしれない。
それに……男女間だって、ただ好きという気持ちだけでは成り立たないのが現実だ。」
おいらは意思を込めてお父さんを見つめる。
「それがあのバカ息子が相手だ。苦労するに決まってる。
君のその才能まで潰してしまうかもしれない……。
君とお互いを高め合っていく、そんな相手がこれから現れるかもしれないよ。」
「おいらは……高め合っていくとか……いいです。
ずっと……悩んできました。それこそ、10年以上。」
今までを思い出して、クスッと笑う。
「この気持ちを修君に拒否されたらどうしよう。
幼馴染として、近くにいることもできなくなる……。
そう思うと、伝えることもできなくて。
だから、こんなに時間がかかってしまった。」
小さく息をつき、お父さんを見上げる。
「おいらに才能があるかどうかなんてわからない。
あるとすれば……修君を好きでい続けられるという才能……。それだけです。」
「智君……。」
お父さんがおいらの肩に手を掛けて、引き寄せる。
「ありがとう……。そんなに修のことを想ってくれて……ありがとう。」
おいらを抱きしめるお父さんの温もりが伝わってくる。
修君に近い体温と、修君に似た匂いがおいらを包む。
「お父さん……。」
チラッとお母さん達を見ると、みんな、嬉しそうに微笑んでる。
おいらはやっと安心して、お父さんの背中に腕を回し、伝わった喜びをかみ締める。
「ふざけるな!クソ親父!智から離れろ!」
修君の声にびっくりして振り返ると、物凄い勢いで走ってくる修君が、
おいら達の間に腕を入れ、おいらをお父さんから引き離した。
「修!」
お母さんの悲鳴のような声が響く。
「油断も隙もない。」
修君はおいらを自分の後ろに隠して、お父さんを睨み付ける。
「黙って聞いてれば、何がお互いを高め合う、だ!そんなのクソくらえ!
俺は智がいてくれればそれでいい、それ以上でもそれ以下でもない!」
遅れて、マー君、ジュン君、カズがやってくる。
「ごめん。智!せっかくいい雰囲気だったのに……。」
マー君がすまなそうに頭を掻く。
「隣のブースでずっと様子を伺ってたんですけど……。」
カズが肩をすくめて首を傾ける。
「もうちょっと、待てって止めたんだけど……。」
ジュン君も溜め息交じりにチラッと修君を見る。
「な、なんだよ。クソ親父が智を抱きしめながら匂いなんて嗅ぐから!」
「い、いつ匂いなんて嗅いだ!」
お父さんが修君に食って掛かる。
ああ、修君、ケンカはダメだよ~。
「嗅いで、鼻の下伸ばしてたくせに。」
「な、なんだと!」
「それとも、智の匂いに気づかなかったとでも言う!?」
「そ、それは……。」
「ほら、やっぱり!」
「う、うるさい!お前に言われる筋合いはない!お前だって、なんだ。
あれくらいで飛んでくるとは。ああ、智君もとんだヤキモチ焼きで、苦労するわ!」
「何だと!」
「二人とも!」
おいらとお母さんは、二人の間に入って引き離す。
「いい加減にして。みっともない!」
お母さんが目を三角にしてお父さんを睨み付ける。
修君の怒った顔はお母さんゆずりらしい。
空気がシーンと静まりかえる。
「ま、でもこれで、修ちゃんのお父さんにも認めてもらえて、
智、よかったね。」
マー君が固まった空気を和らげるように、おいらの隣にやってくる。
認めてもらえたと思って……いいのかな?
「私はまだ認めたとは……。」
「もう認めたようなもんでしょ?おじさん。」
ジュン君がお父さんの隣に並ぶ。
「それとも智に不服がある?」
カズがおいらの父ちゃんと母ちゃんを見ながら言う。
「そんなことは……。」
「じゃ、いいのね?あなた?」
お母さんが優しい笑顔でお父さんに詰め寄る。
「う……う~。」
「よし!決まった!おめでとう!智!」
「いや、認めたわけじゃ……。」
お父さんが困ったようにそう言ったけど、誰もそれを聞いてあげない。
「おめでとう!」
「おめでとう!」
マー君、ジュン君、カズが、ニコニコしながらおいらの手を握る。
「え?……いいのかな?」
おいらが小さくつぶやくと、カズがウィンクして見せる。
「いいんですよ、このままOKもらっちゃえば。」
カズも小さな声で笑う。
「そうそう。」
マー君がおいらの肩に腕を回す。
「空気?流れ?作ったもん勝ち。」
ジュン君はおいらの腰に手を添える。
「待て待て。」
修君がやってきて、みんなを蹴散らそうとすると、
ジュン君が修君の手を握って、大きな声でおめでとうと笑う。
「おめでとう!」
「おめでとう!」
マー君もカズも修君の腰や、肩を叩き、一気におめでとうで包んでいく。
それを見ていた父ちゃんと母ちゃんは顔を見合わせて笑ってる。
お母さんと……お父さんも。
修君がマー君達におめでとう攻撃を受けてるのを見て、おいらはお父さんの前に行く。
「本当に……いいんですか?」
お父さんはプイッと顔を逸らして、小さくつぶやく。
「仕方ない……。」
本当に、素直じゃないとこ、修君にそっくり。
「ありがとうございます!」
おいらは深々と頭を下げた。
それに気づいた修君も、おいらの隣に並ぶ。
「……ありがとう。」
修君も深々と頭を下げる。
「……喜ぶのはまだ早い……。」
「え?」
修君が頭を上げてお父さんを見る。
「クソ親父、まだ何か……。」
「斉藤家のしきたりだ。仕方ないだろう?」
お父さんは気のせいか、ちょっと意地悪な顔をする。
「盆に親戚一同が集まるのは修も知っているな?」
修君がうなずくと、お母さんがおいらの隣にやってくる。
「おじいさんにお披露目して、お許しをもらわないと……。」
お母さんが静かに言う。
「斉藤家では認められないの。三十数年前、お父さんもやったのよ?」
お母さんが懐かしそうにお父さんを見る。
「おじいさんは……怖いぞ……。」
お父さんは楽しそうに笑う。
おいら達、結婚するわけじゃないのに……やっぱりそれはやらなきゃいけないの?
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