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聞きたいこと -8
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「すげー、楓坂の新曲めっちゃ安いじゃん」
まず最初に立ち寄ったのはCDショップ。
このCDショップは、理由は分からないが
なぜか新曲が超激安なことで知られている。
秀馬が手に取った大人気アイドルの新曲は
なんと3割引の980円。他の店舗からクレームが
来たとしても仕方がない値段だ。
で、何故その激安CD店に来たかというと、
なんでも7月にあるトリユニのライブに向けて
秀馬がアルバムを買っておきたいようだ。
この前の帰り道に誘われたトリユニの
フリーライブは、家のすぐ近くの聖風公園で
開催されるらしい。俺の家から歩いて5分。
「ところで秀馬、曲予習するったって
YouTubeで公式があげてるやつは
全部聞いてんだろ?何でアルバム買うんだ?」
普段あまりCDを買う気にならない俺にとって、
YouTubeで聴ける曲をわざわざ買うことは
不思議で仕方なかった。
そんな俺の質問に秀馬は馬鹿を見るような
目を向けた。あれ、俺変なこと聞いた?
「ほんっと分かってねぇなお前〜、
CDを持ってたらこう、ほら、なんか
ファンになれた感じがするんだよ!
別にグッズいっぱい買ってるからって
愛が強いとかそんな事はねーけどさ、
でもやっぱ特別感というか…?
しかもアルバム収録曲とかカップリング曲は
YouTubeじゃ聞けねーし!」
と、秀馬は早口に語る。
なるほど、買わないと聞けない曲があるのは
まだ分かるとして、買うと特別感がある
というのは俺には理解できない価値観だった。
たしかにグッズを大量に身に付けることで
ミーハー女子がアイデンティティを確立する
といった様子はよく見るけども、
俺はもう好きならなんでも良いだろうと
思ってしまうし、そもそも金を使うほど
何かを好きになることがあまりない。
などと考えていた俺だったが、ふとあるCDが
視界の端を過った。
それは、昔駆が大好きで、憧れていた人。
ジェナーズ事務所の大人気グループ、
Knock×turN(ノクタ-ン)のセンター、
柊 零雄(ヒイラギ レオ)のソロCDだ。
小学校高学年ぐらいから、駆は彼のことを
熱狂的に応援し始めた。その眼差しは、
男として深く尊敬しているように見えた。
今思えば、それは俺が許されない恋心に
気づいた理由の1つだったかもしれない。
今まで駆に頼られる男になろうとしていた俺は、
雲の上のアイドルに強い嫉妬心を覚えたのだ。
その醜い感情こそが恋のきっかけだったのかも
しれない、或いは以前からあった恋を
自覚させただけだったかもしれない。
どちらにせよ、この男は俺にとって
超えられない壁で、ある意味脅威だった。
今でも駆は彼に憧れているのだろうか。
駆なんて関係ないといくら言い聞かせても、
俺の心は黒く焦げた嫉妬心で
埋め尽くされそうになる。
途端に頭にチクリとした感触を感じた。
「…まーた考え事か?」
秀馬お得意のデコピンだ。
「あ、…悪ぃ」
そうだ、俺が駆の事を考えてしまうのは、
駆を忘れきれていないせいというよりも、
目の前にいる人としっかり向き合えていない
せいだ。今この時を大切にしよう。
そんなことは少し前にも思ったはずだった。
「ほーんと考え事好きだよなーお前。
悩み事だったら聞くからな?」
苦笑しながら秀馬はそう言う。
俺の心の葛藤は見抜かれているのか、
それとも単なる優しい言葉か。
確かに言えることは秀馬は間違いなく
良い友人だということだけだった。
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