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聞きたいこと -16
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「…あ、雨だ」
すぐ横の壁にある、床に面した小窓から
ポツリ、ポツリと水音がしたかと思うと、
突然その音は鋭さを増してザーザーと
激しい雨に変わった。
小窓の外に広がるコンクリートのベランダの
ような部分は、一気に深い色に染まる。
角に止まっていた小さな虫が、
屋根がある場所まで素早く移動している。
思えばもう梅雨の時期だった。
「えぇ、このあと、えぇ、外に出て、
えぇ、自由時間に、えぇ、するつもりで、
えぇ、いましたが、えぇ、雨が、えぇ、
降って来たので、えぇ、このまま、えぇ、
別のスポーツテストの、えぇ、測定をします」
「「「エエエエエエエ」」」
まるでえぇちゃん先生につられるように
生徒から不満の声が上がる。
正直体育にあんまりやる気のない俺にとっては
どっちでも良かった。
ただよく考えれば、このまま達とペアを
組み続けることになるのではないか…。
「では、えぇ、そのままの、えぇ、
ペアで、えぇ、握力と、えぇ、立ち幅跳びを、
えぇ、測定して、えぇ、いきましょう」
やっぱりか…。
他のペアと違い雑談をしたりふざけたりと
いうことのない俺たちは一瞬にして測定を
終えた。ちなみに握力も立ち幅跳びも
微妙に達に負けた。微妙だから余計悔しい。
そしてやることもなくなったので壁際に
あったバランスボールに座って軽くバウンド
しながらぼーーっとしていた。
あとほぼ1年、まだまだ達と過ごしていく
訳だが、俺はどうなるのだろうか。
今日はギリギリのところで隠し通したが、
若干バレてたし、これ以上のことがあれば
速攻アウトだ。俺が達を遠ざけて来たことが
完全に無駄になってしまう。そうだ、
俺が恥ずかしいっていう問題よりも、
この達への想いは絶対バレてはいけない。
それにそんな感情はとっくに捨てたはずだった。
はずだった、のに。
この1ヶ月ちょっとの間で、当時よりも
ずっと大きな想いが、俺の胸の中を
行ったり来たりするようになった。
一番の思春期である中学時代、
目的の相手に触れることさえ我慢して、
必死に感情を押し殺そうと、
何の興味もない女を相手にし続けて、
何も満足できなかった。
その反動だろうか。最近中学の時よりも
性欲が強いしムラっとすることも多い。
あぁ重症だ…、どうにかしねぇと。
「なぁ?」
そんな考え事をしていたら、
急に達に声をかけられる。
こっちはお前のせいで色々悩んでんだっつーの。
「…あ?」
「お前って何で俺のこと避けるように
なったの?」
「…………??」
言葉が出てこなかった。
一瞬その言葉の意味が理解できなかった。
客観的に纏めてしまえば、
俺はこの気持ちを隠し通すために、
そしてあわよくば消し去ってしまうために
達から離れた。そういうことになる。
でもそれは結果的にそうだったのであって、
当時はそんな風に考えて、ちゃんと決意して
達から離れることを実行したわけではない。
それまで特定の女の子に恋心を抱いたことが
なかった。それでも、大好きな達がいれば、
それだけで十分だって思っていた。
そしたら気づいてしまった。
俺は達のことが好きだって。
ずっと好きだったのか、
ある時から好きなのか
そんなこと分からない、
ただとにかく好きだった。
最初の頃はなんだか幸せな気持ちだった。
なんだ、俺は達が好きだったんだ。
そしたら今までの色々なことが納得いく。
でもいつからだろう、
男に恋していること、
幼馴染に恋していること、
親友に恋していること、
色んなことが重なって訳が分からなくなって、
それでも俺の気持ちは間違った感情だって
幼いながらにそう判断して、混乱して他に目を
向けていた。その時は気持ちを消そうだとかは
全く考えていなくて、ただパニックに陥った。
そしたら達が怖くなって、
それでも好きなのが意味不明で、
達のことを考えるだけで胸が色んな気持ちに
支配されてズキズキと痛んだ。
それに達も俺から離れていってたし…。
そうだよ、先に距離を置き始めたのは
お前の方じゃねーか。
達が俺から離れ始めたとき、
俺の気持ちがバレてしまったのかと思った。
それがきっかけでパニックが余計に酷くなった。
そしたらいつからか達を嫌えって
頭が指示してた、そんな感覚だ。
…なんでそのお前が、
俺にそんな質問するんだよ。
俺が聞きてぇよ…。
キーンコーンカーンコーン
「…悪ぃ、忘れて」
俺の頭の中に広がった言葉たちを
半分に切り咲くように鳴り響いたチャイムの
音とともに、達はそそくさと体育館から
出て行った。
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