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聞きたいこと -20
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門の横にある小さな来客用駐輪スペースの
屋根の下で、達は蹲っていた。
急いで駆け寄り、震える背中を後ろから抱き締め、
必死に温めた。髪は雨に濡れて重く垂れ、
白いワイシャツも水浸しで所々透けていた。
一瞬誰か分からない様子で達は肩をピクリとさせる。
しかし体温か、匂いか、何かを感じ取って
俺であることを認識した様子だった。
「…やめろ、駆、俺に、触んな…」
普段は聞いたこともないような、
弱々しい声で達は言った。
「お前にだけは、こんなかっこ悪ィ所、
見せたくない…」
俺は何も言ってやれなかった。
もっと幼い頃は、たしかに達に苦手なものがあるのは
意外だったが、子供だから一つぐらいはあって
当然だなんて思っていた。
しかし、今この年齢になって、
普段は完璧で、強くて、冷静な達が、
こんなにも取り乱してしまうのは
幼馴染の俺にとっても驚きだった。
それほどあの記憶は、達にとって忌まわしく、
一生消えない心の傷になっているんだと、
今まで以上に強く感じさせられる。
達はこんな姿を誰にも見せる気は無いだろう。
強い男であればあるほど、周囲の人間に弱さを
曝け出して、誰かに思いっきり頼って、
傷を和らげてもらうなんてことは出来なくなる。
そんな達の支えになってやれるのは、
この世できっと俺しかいない。
今の関係はもう親友なんて呼べるものではないし、
俺も達に対して複雑な感情を抱いてはいるが、
それでもなお、俺は達のことを、世界で一番
理解しているという絶対的な自信がある。
俺は達を無理矢理背中に背負った。
最初は少し抵抗していたが、
弱っているからか、すぐに諦めた。
そして出来るだけ濡れないようにして傘をさす。
その身体はずっしりと重かった。
最後に達を負ぶったのはいつだろう、
その時も、達の方がややガッシリとしていたが、
今の重さを俺は知らなかった。
それでも俺はしっかりと達を背負って歩いた。
まるで子供の頃の俺と達が入れ替わったみたいに。
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