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夏が嫌いな理由1
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(雪千語り)
俺は夏が嫌いだ。
昔っからそうだった。とにかく暑いのが苦手で、汗を掻くのが不快でしょうがなかった。このど田舎にも例外なく夏はやってくる。クーラーを付けるとヒューズが落ちるので、自室ではなく茶の間で寝転がっていた。
「雪千(ゆきち)いつまでも寝てばっかりいないで、何か動いたら?」
「ゔーん………」
農作業の合間に帰ってきた母さんに声を掛けられたが、軽く唸った後、再び目を閉じた。窓を閉めて、クーラーをガンガンにつけても、外から漏れ聞こえる蝉の鳴き声が煩い。
窓から見える青空が悲しいくらいに遠く感じた。
そして家族みんなから腫れもののように扱われるのが鬱陶しくて仕方なかった。
俺は今年で25歳になる。高校を卒業してから東京の大学へ進学し、自由奔放な大学生活を送っていた。適当に授業をサボり、バイトをしながら遊び呆けた。一人暮らしのアパートには常に恋人の私物が溢れ返り、親の仕送りで夜通し遊ぶ楽しみも、恋する切なさも経験した。その中で、人生というものの醍醐味を学んだ気でいたのである。
世の中はチョロい。真面目に生きていく方が苦労する。そんな屈折したかっこ良さに憧れていた。
今思えば若いだけの勢いが、就職して一変する。元々俺には合っていなかったんだと、振り返る度に思おうと努力しているが、今となっては分からない。
営業職として入社した会社で、俺は世知辛さを知る。インターンから独り立ちした後、思うようにノルマが達成できなくなった。毎日くたくたで帰って寝るだけの日々。どんなに努力しても、頑張っても空回りしていた。数字が伸びずに、先輩からも叱咤された。悪いのは自分で、意志が弱くて努力が足りないからダメなんだ。
体重もどんどん落ち、不摂生な暮らしの中で、些細なことで喧嘩になった彼女にフラれ、ぷつんと糸が切れた。ある朝突然、起きられなくなったのである。身体が重く動けなくなった。怠くて何もできない。
課長も、先輩も、力になってくれた。出来ないことがストレスになったのなら営業職はいいから職種を変更しようとも言ってくれた。だが、結果として駄目だった。会社の最寄駅すら近づくことがままならなくなった。
身体と心が離れたようになり、息をするのにもしんどくなった。駄目な自分が情けなくて涙が出て、毎日死にたいとすら思った。
直ぐに支給された失業給付も底をついて無くなり、屍のような暮らしの俺を、見るに見かねた両親と姉が回収しに来た。
それが先月の半ば。丁度梅雨に入った頃で、夜にはカエルの合唱が辺り一面こだましていた。約3年で終わった俺の社会人生活は、俺の心にぽっかりと空洞を残して去って行った。今俺のいる現状はあまりにも情けない。ネット環境も不安定な片田舎で、ただ夏が過ぎるのをゴロゴロと横になり待っていた。
嫌いな夏が終わったら再び動き出そう。そう心に決めていた。
7月下旬、とても暑い夏の昼下がりだった。
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