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運命の人3
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(夏緒語り)
そのユキちゃんが俺の目の前に座っている。
俺の職員寮と称したアパートでテーブルを囲んでいた。俺の横には意地悪な岳と印象の薄い涼太もいる。机上にはビールとツマミが並べられていた。ユキちゃんが枝豆を食べている姿が小動物みたいに可愛いくてドキドキする。
もっと近くで眺めていたいけど、心が弱っているユキちゃんに無理強いをするのは憚られた。2人っきりなんて、長年の溝が埋まらないと無理だろう。何事も急がば回れなのだ。焦らない。ゆっくり、ゆっくりと取り戻そう。
「小学校を卒業してからだから、んーと何年ぶりだろう……」
頭の悪い岳が計算に困っている。岳は、高校を卒業してから家業を継ぎ、今は野菜を作っていた。今日もツマミにきゅうりの浅漬けを持って来てくれた。まぁ、不味くはない。
「13年だろ。岳、頭悪すぎ。」
「ユキ……いつものユキに戻ってる。心配したんだからなー、みんなそっとしといてやれって言うから、我慢したんだ。俺がどんなに心配したか……」
「はいはい、岳はしんみりしない。では、ユキの帰還と夏緒との再会を祝して、かんぱーい。」
「乾杯」
涼太がうまい具合にまとめて、場が収まった。小学生の頃から岳は全てに関してユキちゃんが基準で、俺以上親しんでいたように思う。相変わらず邪魔には変わりないけど、悪い奴ではない。
お酒が進み、それぞれの近況を述べ終わると、ユキちゃんが赤ら顔で話し出した。ユキちゃんはお酒に弱いみたいだ。そんなとこも可愛い。黒髪に細めの垂れ目と薄い唇が妙に色っぽく、身体は細いけれど、背は俺より少し高い。きっと眼鏡がよく似合うだろう。俺の好きな塩顔だ。
「なんで夏緒は小学校を卒業してから一度も遊びに来なかったんだよ。俺、待ってたのに。なあ岳?」
「ユキは中学に入ってから別人のように大人しくなったもんな。」
ようやく聞いて欲しいことに触れてもらえた。もう13年も経ってるし、覚えていなかったらどうしようと思って、怖くて口に出せなかった。
「……ぁぁ……それはね、親が離婚したんだ。母について行ったから、尚更行きにくくなって。」
「それはエグいなー。中学生って、かなり微妙な年じゃん。」
「うん。父さんに愛人がいたりね、まぁ、絵に描いたような修羅場はあった。だから行けなかったんだ。ごめんね。」
「ふーん……一言言ってくれればいいのに。」
岳に返事をしながら、缶ビールをぐいと飲み干すユキちゃんが目に入った。
ユキちゃんの甥っ子によると、彼は心身共に疲弊して、今は療養中だ。色んな薬を飲んでいると朔弥君が言っていた。飲み会に誘ったのは俺だけど、お酒と薬の相性は良くない筈だ。飲み過ぎると、翌朝気分が沈むんじゃなかったかなと、大学時代の記憶を手繰り寄せていた。昔付き合った人が今のユキちゃんと同じような症状だったのだ。
「でも。年賀状1枚だけで、後は音沙汰なしって酷くねえか?」
「だから、夏緒には夏緒の事情があんだよ。ユキ、今の話を聞いてたか?わかってやれよ。もう大昔の話だ。」
「だって……」
岳が窘めると、不服そうな赤ら顔をして、ユキちゃんが唇を尖らせた。その顔はずるい。
「ユキちゃん、ごめんね。またこうして会えた訳だし、遊ぼうよ。そうだ、今度キャンプしない?」
「キャンプ?いいねえ。」
俺の言葉に涼太が嬉しそうに反応した。
「涼太はアウトドア好きだもんな。俺、キャンプ場で働いている友達に聞いてみるわ。安く借りれると思う。」
「さすが岳。顔が広いじゃん。この間、ダッチオーブン買ったんだよね。」
キャンプの話題が、わいのわいのと盛り上がりを見せた時に、突然ユキちゃんがコテンと床に倒れた。何事かと驚いて俺たちが覗き込むと、規則正しい寝息を立てて寝ている。
「……おい、寝てる。自由な奴だ。」
「だな。寝てるな。ユキも久々に外出して疲れたんだよ。夏緒、何か掛けるものある?」
「あーはいはい。本当に寝てるね。」
天使がすやすやと丸まって寝ているのを確認して、俺はタオルケットを掛けた。
別にユキちゃんが朝まで目覚めなくても、それはそれで嬉しいのであった。
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