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色あせた世界。(之人vision)
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…何をやっても、楽しさなんて感じない。
征次郎さんはもうこの世にはいない。
ご飯を食べて 一日中ぼーっとして、日が暮れたら寝る。
こんな生活をしている俺を見たら征次郎さんは怒るかもしれないな。
今日も1日が始まる。
いつも2人分のご飯を用意していた食卓に、俺1人のご飯を用意して、ひたすらに黙ってご飯を食べる。
会話のない朝ごはんなんていつぶりだろうか。
征次郎さんと過ごした日々は会話がない日なんてなかった。 …寂しい。 逢いたいよ。。
「征次郎さん…っ。」
俺の目からは涙が溢れていた。
もう泣かないと決めたのに…。
どれくらい経っただろうか、涙も枯れ果てるほど泣いた。ご飯を食べ残していたことを思い出し、ゆっくりと食べ始める。
味なんて全く感じなかった。
朝も昼も、布団の中で転がっていた。
疲れたら寝る。 寝るのが1番楽なのだ。
征次郎さんと夢で逢えるから…。
征次郎さんは、夢の中でいつも見守っているって
優しく微笑んでくれる。
夢だってわかってるのに、本当に征次郎さんが逢いに来てくれてるんじゃないかなんて思ってしまう。 こんなこと考えちゃうなんて、本当に征次郎さんのことが大好きだったんだな なんて思う。
こんな生活を、いつまで続けていただろうか。
1人で営む生活に耐えられなくなった頃、俺は
夢の中で征次郎さんに尋ねられた。
「之人…。 お前、今楽しいか? 俺には、お前が生きていることが苦痛になっているようにしか見えない。 お前が、俺を選んでくれるならお前もこっちに来ないか?」
「行きたいっ! …もう1人なんてやだよっ。」
俺は、即答した。 本当にもう耐えられそうになかった。 寂しさで押し潰れてしまいそうでーー
俺は、その日 何故か夜中に目が覚めた。
何かに誘われるように。
気がつくと俺は征次郎さんの部屋の前にいた。
寂しくてそのまま取っておいた征次郎さんの部屋。
そっと入って征次郎さんの私物に囲まれた部屋を見渡す。
とっても懐かしかった。 不思議と悲しいという気持ちは起こらなくて、征次郎さんが愛用していた万年筆を手に取る。
それを見つめ撫でていると、無性に眠たくなった。
俺は急いで、布団へ向かった。
万年筆を抱いたままーー
目がさめると、目の前には征次郎さんがいた。
なんだか悲しそうな顔をしていて俺は不安になった。
「之人、本当にごめんな。 俺のわがままを許してくれ…っ。」
そう言って、征次郎さんは俺を強く抱きしめてくれた。 こんなに、はっきりと征次郎さんを感じたのは久しぶりで泣きそうになってしまった。
「ねぇ…。征次郎さん。 どういうこと…? どうして謝るの? これは、夢なんでしょ…?」
征次郎さんはゆっくりと首を振った。
「…お前がいるこの世界は、死後の世界なんだ。」
「…えっ? 俺、死んじゃったの? どうして?」
信じられなかった。 昨日まで何もなかったじゃないか。
「お前の夢に俺が出てきて、こちらに来ないかって聞いたの覚えてるか? お前はきっと、夢だと思っただろうがあれは夢じゃなかったんだ。
俺は死んで、だいぶ経った。 生きている人を、ーー大切な人、之人を こっちへ連れて来れる力が備わったんだ。 俺はいつもお前を見守っていた。 お前がいつか神様からこちらに呼ばれるまで、ずっと待っていようと思っていたんだ。
だが…、そんなことできたかった。 見ていればいるほどお前に逢いたくなって…。
呼んでしまった。 …お前の生を奪ってしまった。 本当にすまない…。」
本当に申し訳なさそうに、征次郎さんはうなだれてしまう。
「征次郎さんっ、謝らないでよ! 死んじゃったって聞いた時、俺すごい驚いたよ。 驚いたけど、いやだなんて一言も言ってない!
俺は、死ぬことなんかよりも征次郎さんを失うことの方が辛かった。 いくらご馳走を食べたって、仲の良かった友人に会ったって、味なんてしないし楽しくもない。 征次郎さんがいないとダメだったんだよっ。 逢えて嬉しい。 きっと俺たちは生まれ変わっちゃうだろうけど、その時まで一緒にいよう?」
征次郎さんは、俺の言葉に驚いたように目を見開き もう一度俺を強く抱きしめると、 震えた声でありがとう…と呟いて俺に口付けた。
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