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油谷さん 2
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油谷勤務の最終日、彼女は30分遅れてやってきた。
もちろん、連絡はあったのだが、理由は起きられなかったというものだった。
水野は憤慨して、家政婦として失格だと大奥様に訴えた。
大奥様は、「今日で最後だし」と水野の訴えを受け流した。
4時を過ぎて、油谷が大奥様に挨拶するため離れを訪れた。
「大変お世話になりました。
綾倉様のように、大変品格のあるお宅でお仕事をさせていただき、とても光栄に思っています」
「今朝は疲れてしまったのかしら?」
「最終日に遅刻してしまい、とても恥ずかしく思っています。
ただ、その原因と言うか、少し、気になっていることがあるので申し上げてよろしいでしょうか」
「ええ、どうぞ」
「おそらく、水野さんは私が遅刻したことで大騒ぎしたと思いますが、私にしてみれば、彼女こそ家政婦としてちょっと考えられません」
「どういうことかしら」
「初日、私にこちらのご家族のことを教えてくれたのは彼女でしたが、いわゆる噂話のようなことも得意げに話して聞かせました。
彼女の掃除はいい加減で、実は、この1週間、私は彼女が掃除した部屋をもう一度掃除し直しています。
きのうは、彼女がアイロンをかけた浅黄さんのYシャツを見て愕然としました。
しわだらけで、とても、あんなYシャツを着てもらうわけにはいかないので、彼女が帰った後、アイロンをかけなおしました。
始めにお話があったお仕事以上のことを、私はさせてもらっています。
それは家政婦として、プロ意識を持って仕事をさせてもらっているからです。
それで、今日は疲れがたまってしまったということもあり、起きられませんでした」
「そう、それは大変だったわね。
でも、あなたが抱え込まなくても、彼女に言ってやり直させてもよかったんじゃないかしら」
「彼女には言いましたが、残念ながら、この家にはこの家のやり方があると言われておしまいでした」
「そうなのね。
では、この1週間はずいぶん疲れたことでしょう。お疲れ様」
油谷は大奥様の言葉を聞くと満足そうに一礼すると、ドアに数歩向かった後、立ち止まり振り返った。
「もし、私を水野さんの代わりにとおっしゃっていただけるなら、私は喜んでお引き受けします」
油谷はもう一度、頭を下げると出て行った。
油谷と水野が帰ってから、綾倉の母は急いで浅黄のところへ向かった。
浅黄はリビングでテレビを見ながら、出かける時間を待っていた。
「水野がアイロンをかけたシャツが、しわだらけだって本当なの?」
「そでがちょっとね。
上着は着ないし、お客さんの目につくところだから、気になるときは自分でかけなおしてる」
「そうなの」
綾倉の母は小さくため息をついた。
「でも、いつもはだいたい藍川さんがかけてくれるから大丈夫だよ。
油谷さんもやり直してくれてたけど」
「あなたは水野を油谷に変えた方がいいと思う?」
「水野さんは雑なところもあるけど、頼みごとをしたら嫌な顔せずにやってくれる。
油谷さんは細かくて息苦しいところもあるけど、仕事は完璧にしてくれる。
俺はどっちでもいいよ。
おかあさんは変えたいの?」
水野を交代させるとなると、主に母の世話をするのは油谷になる。
「そういうわけではないけど、もし、あなたが気になるのならと思って」
「じゃあ、今のままでいいんじゃない?
俺は気にならない。
それに、藍川さんは水野さんとの方が合いそうだし、水野さんが何か大きな失敗をしたわけでもないし」
「そうね」
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