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紅葉の季節 2
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コンサート当日、桜井は野口から、終わった後にそのオーケストラをやっている友人と飲みに行く約束をしていると聞かされた。
また、人に了解も得ずに勝手に約束してといらついた。
「その友達は、俺が昔よく行ってた店で知り合ったんだ」
野口の話を聞いて、桜井は少しげんなりした。
野口は自分の友人たちの前で、桜井との仲を自慢したがる。
元々人前でいちゃつくのが苦手な桜井だが、今はもっと気が重い。
コンサートが終わってから、約束の店に入ると、オーケストラをやっている友人、相田の他にもう一人いた。
「あれ? 浅黄?
久しぶりだな。元気だったか?」
「おう。先に始めてるぜ」
浅黄はビールを野口に示すと、隣にいた桜井にも軽く会釈した。
相田と浅黄に自分を紹介する野口の隣で、桜井は自分の心臓が高鳴っているのを感じていた。
浅黄は「理想が服を着て、そこにいる」という感じだった。
「クラシックなんて、中学以来だな」
浅黄が相田に語り掛けると、野口も「自分もそうだ」とうなずいた。
「他にも何人か誘ったんだけど、結局来てくれたのは、お前ら二人だけだよ。
まあ、お前らも含めて、みんなクラシックって柄じゃないもんな」
「やってるお前だって、そんな柄じゃないぜ」
褒めているのか、感謝しているのかわからないような相田の発言に浅黄が反論した。
「そうか?自慢じゃないけど、大学の時からフルートを初めて、こんなにうまくなってるんだぜ」
「うまいのか?」
野口が浅黄に聞いた。
「わかんねえ。でも、バイオリンは良かったぜ」
「フルートを褒めろよ」
相田が不満そうに言った。
「いや、フルートの良さはわかんなかった」
「俺も」
「所詮、お前らには豚に真珠だな」
そう言って、みんなで笑いあった。
桜井はなかなか会話の和には参加できなかったが、それでも、浅黄を見ているだけで楽しかった。
駅で別れてからも、もっとずっと、彼を見ていたかった。
もっと彼のことを知りたかった。
「浅黄はカッコイイだろ」
そんな桜井の気持ちを察したのか、野口が言った。
「うん。ファンになった」
桜井は自分の気持ちを正直に話した。
「今度、あいつの店に行くか?」
「ほんと? 行こう!」
桜井は家に帰って、スマホを見つめた。
野口が浅黄の連絡先を聞いたのに便乗して、自分も浅黄の連絡先を教えてもらった。
だからといって、いきなり、野口を飛ばして浅黄にメッセージを送るわけにはいかない。
野口の言う、浅黄の店に行く「今度」とはいつだろう。
行くのをせかしたら、おかしく思われるだろうか。
でも、早くもう一度会いたい。
浅黄の顔や声を思い出しながら、目を閉じた。
「ただいま」
浅黄が帰ったとき、綾倉はテレビのニュースを見ていた。
「おかえり。
コンサートはどうだった?」
「想像してたよりずっと良かったよ。
俺はうまい下手はわからないけど、アマチュアオーケストラとは思えない感じだった。
曲もみんな聞いたことがあるようなものばかりだったから退屈しなかったし」
「お前とクラシックコンサートは結び付かないけどな」
「自分でもそう思う。
でも、初めて生で聞いたけど、なんていうか、管弦楽の音がちょっとすごかったな。
空気を伝わってきて、全身が包まれて、ぞくっとした」
「今度一緒にプロの演奏を聴きに行くか?」
「初心者向けのやつならね。
じゃないと、たぶん寝ちゃうよ」
「じゃあ、適当なのを探しておく」
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