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クリスマス・スペシャル
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「吉永ご夫妻から、クリスマス・パーティのご招待が来ていますが、出席で返信してよろしいでしょうか」
12月に入って間もなく、綾倉のスケジュールを管理する藤原に、吉永からのメールが届いていた。
「あの集まりに一人で出席するのは気が重いが仕方がないな。
離婚した途端、欠席と言うわけにもいかないだろ」
「お友達もご一緒にどうぞとあります。
このお友達とは、おそらく、浅黄のことかと思いますが、ご一緒されますか?」
「それはやめておいた方がいいだろ」
「同感です」
同じころ、綾倉邸では、家政婦の藍川と水野が浅黄相手にお茶を飲んでいた。
「今年は、吉永さんのところのパーティに旦那様は行くのかしら」
渋谷駅周辺のイルミネーションの話になった後、水野が藍川に尋ねた。
「さあ、旦那様は何もおっしゃっていないけど、浅黄さんにはお話ありました?」
「何も。何のパーティ?」
「ご近所の吉永さんのお宅で、毎年クリスマスパーティをやるんです。
確か、4組のご夫婦が集まるんだったと思います」
「そうそう。ホストの吉永さんご夫妻は、ご主人が医療法人の理事長をやっていて、奥様はお料理好きで、パーティではすべて奥様の手料理が出されるとか」
「へえ、すごいね」
「でも、二人とも常識人過ぎて、面白みに欠けるそうです。
それに比べて、田辺ご夫妻は確かデザイン関係のお仕事をやってらして、最先端のことが大好きで、お二人ともとてもお洒落です。
あの方たちを見てれば、これから何が流行るのかわかります。
それと正反対なのが、牧野ご夫妻で、二人して成金丸出しと言うか、何というか。
なんで、この集まりに参加してるのかわかりません」
「さすが水野さん。まるで綾倉家で開催されてるみたいに詳しいね」
「前の奥様が、おっしゃってたんです。
表面上仲がいいふりをして、時々、ランチにお誘いしてましたけど、皆さんがいないところではすごい見下していました」
浅黄はあえてノーコメントとした。
結局、クリスマスイブの日曜日、綾倉は吉永家のパーティへ、浅黄は友人たちと飲み会へ出かけた。
二人とも、相手を連れてくるように言われたが、お互い、相手が楽しめないだろうと分かっていたので誘いもしなかった。
綾倉を出迎えた吉永の妻は、「いらっしゃい」と言いながら、綾倉の背後に連れの姿を探した。
「本当に、一人でいらっしゃったんですね」
「ええ」
事前に一人で出席することは伝えてあった。
「遠慮せずに、お友達もご一緒くださればよかったのに」
そういう彼女が安どの表情を浮かべていることに、綾倉は気付いていた。
リビングに移動すると、他の2組の夫婦がにこやかに出迎えた。
クリスマスカラーをさりげなく取り入れたファッションをしていた田辺夫妻は、綾倉が一人で現れたことに少し落胆の表情を浮かべた。
「綾倉さんのお相手に会えると思って、とても楽しみにしてたんですよ」
「まさか、同性だからって遠慮したんじゃないでしょうね。
僕の周りでは、仕事柄か、そんなに珍しくないですよ」
「向こうは向こうで、付き合いがあってね」
来なかった理由が何かないと、許されないようなので、綾倉はそう答えた。
彼が楽しめないだろうからと本当の理由を言っても、彼らは納得しそうもなかった。
「じゃあ。今度、別の機会に紹介してよ」
田辺夫人の言葉に、綾倉はあいまいにうなずいた。
そして、牧野夫妻は、話題が変わるのを黙って待っていた。
彼らは、自分の知り合いにそんな「普通じゃない人」がいること自体が信じられないと言う様子で、なるべく、その話を避けようとしていた。
綾倉は、乾杯したシャンパンを一口飲んだ後、これを浅黄に飲ませたら喜ぶだろうなと思いながらも、やはり、この集まりに彼が参加する姿は想像できないでいた。
黒澤に誘われた飲み会には、20名近くが集まっていた。
そのうち半分ほどは、浅黄が知らない男たちだった。
ほとんどがカップルで、そうでないのは、浅黄を含め6人だった。
当然と言えば当然だが、そうでない人たち同士で今夜一緒に過ごそうという意図が見え見えだった。
浅黄がのらりくらりと、相手の誘いをかわしているのを見て、一緒に来ていた酒井が隣に立った。
「お前も彼氏を連れてくればよかったのに。
そうすれば、こんな風に誘われなかったぜ」
「彼を連れてくるのはないな」
「そうだよな。相手はセレブなんだろ?ここはセレブが来る雰囲気じゃないよな。
でも、見てみたいな。黒澤はあったことあるのか?」
「ないよ。でも、店には何度か来てるから、マスターは知ってる」
「ああ、聞いてる。頭の切れそうな感じの人だって言ってたよ。
今日は一人で留守番なのか?」
「いや。近所の家でパーティやってる」
「ホーム・パーティ? セレブっぽいな」
浅黄は苦笑した。
浅黄がもう少しで自宅に着こうとした時、向かいから綾倉が歩いてきたのに気が付いた。
「どこ行くの?」
「藍川さんがこの先に、イルミネーションが見える場所があるって言ってたのを思い出して、ちょっと行ってみようかと思ってね」
「一緒に行ってもいい?」
「ああ」
二人は肩を並べて、住宅街の中を歩いた。
夜になって、空気が冷たく感じたが、歩いてきたせいか、それほど寒くはなかった。
藍川さんが言っていた場所は、ちょうど建て替えが行われている家の近くで、暗く、人通りもなかった。
ちょうど隙間から、遠くに、渋谷の繁華街のイルミネーションが見えた。
車のライトとともに、華やかなクリスマスの夜を演出していた。
「楽しかったか?」
綾倉が浅黄を見ずに言った。
「楽しかったよ。
そっちは?」
「楽しかったよ。
なんでお前を連れてこなかったのか、来年は絶対に連れて来いって責められたけどな」
「来年のイブは仕事だよ。
今年はたまたま日曜だから休みだったけどね」
「ああ、そうだな」
気温がさらに低くなったように感じた。
「冷えるな。帰るか。
一緒にいられる貴重なイブだしな」
「綾倉さんはイブだからどうのってのはないでしょ」
「お前もそうだろ」
「そうだけど、今日、カップルで来てたやつらが、『特別な日に一緒にいる』って感じで楽しそうにしてたのを見て、ちょっと、うらやましかったけどね」
綾倉は何も答えずにふっと笑って、家に向かって歩き始めた。
浅黄も綾倉に続いた。
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