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白川さんのお父さん ④
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次の金曜日、浅黄は公園のベンチの近くで待機し、女性がベンチに近寄ってくるのを確認すると、先に白川の父の横に座った。
女性は、「あら」という顔をした後、白川の父に会釈をして通り過ぎていった。
白川の父は、女性の後姿を見送った後、前を見て公園に散歩に来ている園児たちを眺め、立ち上がろうとはしなかった。
「邪魔しちゃいましたかね」
浅黄が声をかけると、白川の父は驚いたような顔をした。
「いつもあの女性とここでお話してますよね」
白川の父の顔に警戒心が浮かんだ。
「だったら、なんだ」
「お子さんたちが心配して、あなたが浮気をやめるように説得してほしいと頼まれているんです」
白川の父の顔に再び驚きの表情が現れた。
「彼女とは浮気なんてものじゃない。
ただ、週に1回、世間話をしてるだけだ。
それに、妻が騒いでる浮気って言うのは、別の女性のことだ」
「え? 他にも浮気している女性がいるんですか?」
今度は、浅黄が驚く番だった。
「いや、いないよ」
白川の父は苦笑した。
「妻が勝手にそう思い込んでるだけだ。
一度、妻の通院に付き合った時に、たまたま、会った友人の奥さんに車で送ってもらったことがあったんだ。
その時に、その奥さんと俺が異常に親しげだったって言って、それ以来、その人とのことを疑ってる。
勝手に自分で話を作り上げて、一人で怒ってる。
いくら違うといっても、信じようとしない。
だから、こうやって外でストレスを発散させてるんだよ。
自治会の老人クラブでカラオケを歌ったり、こうやって子供たちを見たり、さっきの女性と話をしたりしてね」
「さっきの女性とはどういう関係なんですか?」
「どういうって、この公園で、このベンチで話をするだけの関係だよ。
名前も、どこに住んでるかも知らない。
ただ、毎週、金曜この時間に、このベンチに座って話をするだけだ。
こんなのを『浮気』と言われたら、ご近所と世間話もできない」
「奥さんとは世間話をしてますか?」
水野の話では、奥さんから話しかけないと夫は話さないということだった。
「まあ、ある程度は。
でも、文句が多くてね。
妻はあまり社交的じゃないせいか、友人がいなくてね。
妻が一緒に出掛けるのは、妻の姉と妹が多いんだが、二人は千葉に住んでいて、比較的近いところなんだ。
でも、自分だけ東京で、会うのに2時間ぐらいかかる、もっと、近くに住みたかったってね。
こんなことになったのは、私と結婚したからだって責めるんだ」
「そうですか、それはつらいですね。
でも、きっと奥さんも寂しいんでしょうね」
白川の父はそれには答えずに話を変えた。
「平日の昼間にこんな公園にいるなんて、君はまだ学生かい?」
「いえ。夜、働いてるんです」
「さっき、君はうちの子供から頼まれたって言ってたけど、娘からだろ?
息子にも会ったのか?」
「直接には誰にも会ってないんです。人を介して頼まれたので。
息子さんもいるんですね」
「ああ。40後半の息子がいるんだが、あいつも私に似て、生真面目だからか独身だ。
君はいい男だから、もしかしたら、もう結婚してるかい?」
「してません」
「子どもが結婚してくれないと、親は子育てを終えた気になれないんだよ。
君はもてるだろうけど、いつまでも遊んでないで、30ぐらいまでには結婚して、親を安心させな」
「まあ、頑張ってみます」
安心させたい親はもういないし、いたところで安心はさせられない。
そう思いながら、立ち上がった。
「浮気をやめさせるよう説得は頼まれましたが、浮気でないものはやめろとは言いませんから」
浅黄は軽くお辞儀をすると、公園の出口に向かった。
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