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別離
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「ねえ、本当にいいの?俺さ、待つって言ったろ。大切にしたいんだ、奏太の事」
「違う、俺が待てないの」
「大学受かったらって、二人で決めた事じゃん」
「ごめんね瑞樹。でも、どうしても今日じゃなきゃ駄目なんだ」
そう言うと、少し困った顔をした瑞樹が、優しくキスをしてくれる。
ああ、瑞樹とのキスは気持ち良い。浮遊しているような気分。
「んふっ、ん」
自分の耳に戻ってきた、自分自身の声に煽られて肌か粟立つ。
絡んだ舌から銀色の糸がひく。
何度も何度も角度を変えてキスをする。酸欠でくらくらとしてくる。
「瑞樹、好き。本当に好き」
声が震えているのが自分でも分かる。
「奏太、どうしたの?何だか泣きそうな顔なんだけど。怖い?怖かったら止めよう」
「違うよ。俺、幸せだなって。俺の最初は全部瑞樹だから」
「俺も。これからもずっと一緒な。やばい、ちゃんと出来んのかな」
……高三の夏休み最初の日。
瑞樹の家族が出かけた隙を狙って、自分から仕掛けた。
何度もお互いの身体は触った事がある。でも最後までいくのは大学になったらと言う約束だった。
あと半年か、長いのか?短いのか?そう言って瑞樹は良く笑っていた。
「大学生になったら、二人で一緒に住もう」
瑞樹はそう約束してくれた。
……それだけで充分。
「奏太、大丈夫?痛い?痛いよな、どうしよう」
「大丈夫、どうしても瑞樹が欲しいから」
瑞樹でいっぱいにして、優しくしなくて良いから。身体に刻んで、これが最初で最後だから。
「あ、は…入った。すご、やば...奏太っ。俺……お前の事大切にするから。愛してるから」
「ありがとう瑞樹、俺を好きになってくれて……」
ごめんね瑞樹。これで最最、さよなら瑞樹。もう俺の我儘を聞くこともないから。
瑞樹は、俺の想いに応えてくれた。
愛してる、幸せだと言ってくれた。もう十分、これ以上は望まない。
果てて眠ってしまった瑞樹をじっと見詰める。手を伸ばしてそっと瑞樹の携帯を手にした。そして瑞樹の携帯のロックを解除する。
お互いの誕生日が暗証番号。隠し事は無いから、そうしてと先週頼んだ。いいよと笑ってくれた瑞樹。ごめんね嘘ついて。俺は隠し事だらけだ。
メモリーを辿って、すべてのメールのやり取りや履歴を削除する。写真も一枚残らず。これで良い。
眠っている瑞樹の髪に触れるか触れないかのキスをする。そして音を立てないように静かに瑞樹の部屋を出る。これで最後。ごめんね瑞樹。
目が覚めたらきっと怒るかな。心配するかな。そして..…俺の事、嫌いになるかな。
でも、嫌ってくれた方が良い。
「ばいばい、瑞樹」
……俺の最初で最後の恋人。
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