アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
弔いの花が散る3
-
「ん?あれ?瑛?」
どうしたの、と言わんばかりに首を傾げる聖に、藤城の顔が歪む。
「急に飛び出して…。まだ授業中だというのに、こんなところで油を売っているのはまずい。ましてや…」
チラッと火宮に向いた藤城の視線は、嫌悪感が丸出しのもの。
「ふっ、戻れ、聖」
「え、でも…」
「ククッ、授業をサボって、こんなところで俺と一緒にいるところを教師にでも見られたら厄介だ、ってことだろう?」
「えー」
「それに俺はもう帰る。聖の暇つぶしには付き合えん」
ふいっと踵を返し、藤城が来たのとは違う方向へと足を進める火宮の後ろ姿が遠ざかる。
「刃!今日は本当に駄目だからね!」
「……」
「んもう、怪我人のくせに〜」
フラリと後ろ向きのまま、高く上げて振られたのは火宮の右手。
それを目にした聖の目が吊り上がる。
「嫌味だなー」
「怪我人?誰が」
「刃以外に誰がいるの。だから保健室で手当てしてあげようと思って来たのにさ」
今度はツンと膨れてぐちぐちと愚痴る聖は、とても最上級生には見えない童顔っぷり。
「はっ、どうせ喧嘩か何かでやったんだろう?ほっとけ、天束」
「そうだけど、でもさ」
「自業自得だ。それでも喧嘩をやめないあいつに、天束が心を砕いてやる必要なんかない」
くいっと藤城に腕を引かれて、聖の顔に苦笑が浮かぶ。
「逆にそうだから、ほっとけないんだよ」
「は」
「いくら怪我をしても、痛い思いをしても、刃の心には痛みが届かないから…」
火宮が喧嘩をやめない理由が、聖には苦しいほどに分かるから。
切ない泣き笑いを浮かべる聖を、不意に藤城が抱き寄せた。
「俺にしておけ、天束」
「瑛?」
「俺なら絶対、おまえにこんな顔はさせない、だから…」
「瑛…」
「俺にしておけよ、天束っ。お願いだから…」
ぎゅうっ、と聖を抱き締めた、藤城の切ない叫び声だった。
「瑛。瑛、離して」
「嫌だ。火宮とはもうつるまないって、おまえは俺と一緒にいるって約束するまで離さない」
ぎゅうっ、とますますきつく聖を抱き締めながら、藤城の切なる願いが空気を震わせる。
「火宮なんかやめて、こっちに来い」
「瑛…」
「好きだ、天束」
「ごめん」
「っ…」
「ごめん、瑛。僕は刃がいい」
するりと優しく、藤城の腕を撫でた聖が笑う。
「ごめんね、瑛。僕を刃だけが理解する。刃を僕だけが理解できる」
「っ、天束っ…」
「だから」
「天束っ…」
「瑛、あのね。僕は、瑛が思うよりずっとずっと狂ってる。刃と一緒で、どこまでも狂ってる。だからきっと、瑛の手には負えないよ」
ふわり。
艶やかに鮮やかに、聖は至上の笑顔を浮かべてみせる。
フラリとめまいを起こしたように、藤城の足が1歩引かれ、ダランとその手が落ちていく。
「ごめんね、瑛。僕は、刃がいい」
ゆっくりと目を細めた聖の表情に、打ちひしがれたように藤城の目から涙が一筋頬を伝った。
「授業が終わるよ。先に教室に戻ってる」
「っ、天束…」
「なんなら調子が悪くなって保健室って言っておこうか?」
小首を傾げる聖に、藤城は小さく首を振る。
「俺はサボりなんかしない」
「そう」
「おまえらみたいに、サボりなんか」
泣き顔で笑みを作った藤城の言葉は、正確に聖に届いていた。
「僕ら、か…。ありがと、瑛。僕、瑛のことは尊敬しているよ」
優等生の生徒会長さん。
ふふ、と笑う聖の鮮やかな笑みがふわりと隠れた、踵を返した聖の背中を、藤城が黙って見送る。
「尊敬なんかいらないっ。俺もおまえと…おまえの隣に。その同じ側に立ち並びたかった…」
ガクンと廊下にしゃがみ込んだ藤城の嗚咽が、静かに空気を震わせる。
「チクショー、火宮。少しでも天束を不幸にしてみろ。俺が絶対に許さない」
ダンッ、と床を打つ拳が弱々しく震える。
「ったい…。くそぉ、幸せにしないと絶対に許さないからな!火宮刃…」
パタリと床に染みを作った藤城の涙は、誰にも見られることなく静かに乾いていった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
15 / 233