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鬼の霍乱 6
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「ククッ、で?抱いたのか」
「クスクス、薬でトんでたからって、そう簡単に許してくれるタマだとお思いですか?」
バサッと書類をデスクに放りながら、火宮がうっすらと目を細めた。
「いや、無理だろうな」
「ふふ、まぁ俺に抱く気もありませんでしたけど」
「据え膳だろう?」
ニヤリと笑う火宮は、夏原が何を思い、どう考えて行動しているかが手に取るように分かっている。
分かっていて揶揄う火宮は、なるほどかなりタチが悪い。
「本当、意地悪でいらっしゃる。あんな状態の能貴を、俺が抱けるわけがないでしょう?」
「そうか?」
「ふっ、これでも俺は純愛貫いてますからね。心がないのに身体だけを手に入れても、虚しいだけなんですよ」
「おまえがな」
そこまで本気か、と笑う火宮に、夏原が鮮やかに微笑んだ。
「力づくでどうこうすることは、昨夜の能貴なら簡単でした。だけどそれをした俺を、能貴が許すとでも?」
「いや。きっと切り捨てるな」
「でしょう?俺が欲しいのは能貴の心。それを手に入れるためならば、俺は何だってできるし、どんな我慢も苦ではない」
なるほど、それは狂おしいほどの純愛だ。
「能貴が、自分から抱いて欲しいとせがんで、俺を求めてくれるまでは、俺は変わらず口説き続けます」
高らかに宣言する夏原に、火宮の目が、優しく柔らかく弧を描いた。
「一生ないな」
「うわ、断言することないでしょう?」
「あの真鍋だぞ」
「あの能貴ですけどね」
ふふ、と笑い合う火宮と夏原は共犯者だ。
「その真鍋は?」
「薬の副作用が心配なので、病院に放り込んで来ました」
「様子は?」
「まぁ、精神力はご存じの通りです。午後にもケロッと復帰してくるでしょう」
「おまえの方は」
チラッと夏原に視線を流す火宮に、夏原の目がさすがに驚きに見開かれた。
「ご配慮ありがとうございます。でも大丈夫ですよ」
「そうか」
「俺も、能貴も、昨夜の記憶はなくしてしまいましたから」
「夏原…」
「熱に浮かされて見たただの幻です。幻覚は、熱が冷めれば消えて無くなるものですよ」
真鍋の痴態も、その欲情に支配された淫らな声も仕草もすべて。
夏原の脳内からも、真鍋の記憶からも、綺麗サッパリ消し飛んだ、と夏原は笑う。
「おまえは、強いな」
「ふふ、図太いことが取り柄です」
「真鍋が逃げ惑うわけだ」
火宮がそれに怯むことはないが、夏原にはどこか得体の知れない、圧倒的な自信を感じる。
「西の第7倉庫」
「っ、会長?」
「池田に話は通してある」
「ありがとうございます。どの程度いただいていいですか?」
「おまえの気が済むまで、指の1本でも腕の1つでも」
ニヤリ、と頬を持ち上げる火宮は、さすがはヤクザのトップ様で。
「会長は?」
「首謀者の肋骨数本と鼻骨、性器、両手両足各10本の爪をもらった」
「う…」
凄惨な拷問制裁を想像したか、夏原の顔が引きつった。
「右腕を失わされかけたんだ、それでもまだ甘いだろう?」
その後、臓器全てを売り飛ばすつもりでいてよく言う、とは、賢明な夏原は口にはしなかった。
「会長、この度は…」
「ふっ、そう畏まるな。おまえはよくやった」
「ですが救出のお手間を取らせまして…」
「このUSBでチャラだろう?」
調べを入れていた組織の、裏取引の全ての証拠を、真鍋はきちんと持ち帰ってきていた。
「確かにおまえらしくない失態ではあったが、向こうも後ろ暗いことがあったからおまえらに手出ししてきたんだろう。拉致を決行した実行犯は消すことが出来たし、これで黒幕の組織も壊滅だ。むしろ釣りがくる」
「ありがとうございます」
ヒュッとUSBを宙に浮かせて、パシッと掴みとった火宮が、ニヤリと唇の端を吊り上げた。
「褒美に明日、暇をやる」
「っ、会長…」
「ゆっくりしてくるといい。俺がよろしくと。伝えておいてくれ」
スッと執務机の下から取り出されたのは、プリザードフラワーの仏花のブーケで。
差し出されたそれを、真鍋の震える手が受け取った。
「蒼の、好きな花ですッ…」
「おまえが教えてくれた」
ククッと笑う火宮は、過去につらつらと真鍋が語った妹の話を、好みの1つまで間違うことなく覚えていたというのか。
「私は…」
「ククッ、そんな目で見るな。翼に妬かれる」
「っ、あなたは…もう」
思わず、といった様子で、ふっと頬を緩めた真鍋の表情は、一切の翳りがない、自然な鮮やかな笑顔だった。
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