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リクエスト⑥ プチパニック1
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【本編273話、執筆後】
ともみ様よりリクエスト《翼が怪我をして火宮さんと真鍋さんが慌てているお話を読みたいです。普段の火宮さんと真鍋さんから想像がつかないくらいの慌てぶりを見てみたいです》のお話です。
普段からは想像がつかないほどの慌てぶり…書けたかなぁ?と、あまり自信がないのですが、お楽しみいただけたら幸いです。
ちなみにちゃっかり夏原ゲスト出演です。
よろしければお楽しみください。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ドンッ!
シーンとした蒼羽会事務所の幹部フロアの廊下に、突如派手な物音が響いた。
「これは一体何のつもりですか」
冷ややかな冷気を纏った真鍋の声が、まるで凍てつく刃のように放たれる。
「何のって、何も感じない?」
ヘラッ、と笑う夏原の顔が、その真鍋の目の前数センチのところにあった。
「何と言われましても、男が男に壁際に追い詰められ、このように迫られましても、屈辱と不快感以外何も感じませんが」
「えー、これ、流行りの壁ドンだよ?ドキッとしない?」
真鍋の耳の横の壁、触れるか触れないかのギリギリのところに手をついた夏原が、肘を折ってさらに間近に顔を寄せた。
互いの吐息がかかりそうなほどの至近距離で、互いが互いの目を見て睨み合う。
「怖い顔してないでさ、ここはうっとりと目を閉じて、キスを待つ場面…」
「何を馬鹿な…」
ピリッとした緊迫の空気が真鍋と夏原の間に流れた瞬間。
カシャッ。
緊張感を一瞬で崩壊させる、シャッター音らしき機械音が鳴り響いた。
「ッ!」
「誰っ?」
瞬時にパッと離れた2人が、同時に音の発信源を振り向いた。
そこには、廊下の先でスマホを構え、ニコリと笑って気まずそうな顔をしている翼がいた。
「あは」
撮っちゃったー、と愛想笑いを浮かべた翼に、真鍋の顔が珍しく強張り、夏原がスゥッと冷たく目を細めた。
「伏野翼くん、そこで何しているの?」
火宮の情人である翼は、蒼羽会事務所への出入りは自由だ。
当然、幹部フロアにも普通に入れる。
多分火宮に呼びつけられて会いに来たところ、たまたま幹部フロアを通りかかった際に、この場面に出くわしたというところだろう。
「えーと、ひ、火宮さんとこに会いに来…」
「消しなさい」
翼の説明を最後まで聞かずに、真鍋の絶対零度を凌いだ冷たい声が放たれた。
「っ…」
ギクリと身を強張らせた翼が、ジリジリと後退りする。
その手には、ギュッと握り締められたスマホがあった。
「翼さん!」
ドスの効いた声で叫ばれ、翼の身体がビクンッと飛び上がった。
「伏野翼くん?」
夏原にまで咎めるように呼ばれ、翼がさらにジリジリと足を引く。
「翼さ…」
素直に応じないのなら強硬手段だ、と、真鍋が1歩踏み出した瞬間、いつにも増した俊敏さでパッと踵を返した翼が、廊下を真鍋たちとは反対方向へ向かって走り出した。
「翼さんっ…」
「伏野翼くんっ?!」
ダーッと幹部フロアの廊下を疾走した翼が、そのまま角を曲がって消えていく。
「待ちなさいっ」
「待って!…って、能貴、あの先っ…」
「いけないっ、階段ですっ」
2人が顔を見合わせて焦りを浮かべた瞬間。
「あっ、あ、うわぁぁぁーっ!」
ドサドサッ、と派手な音と共に、翼の悲鳴が尾を引くように響き渡った。
「ちょっ、伏野翼くんっ?!」
「翼さんっ」
慌てて追った2人が角を曲がったときにはすでに、翼の姿はフロアにはなく、数段下の階段の途中に、尻餅をついたように座り込んでいるのが見えた。
「痛ったーい。痛たたた…」
腰の辺りを摩りながら、蹲っている翼が喚いている。
「伏野翼くん、大丈夫?」
「翼さんっ、お怪我はっ…」
タタタンッ、と階段を駆け下りて翼の前に回り込んだ真鍋の顔が、今まで1度も見たことがないほど青褪め、これでもかというほど焦りを浮かべていた。
「痛むところはありませんかっ?!」
「うーっ、腰…お尻と、足…」
ふぇぇ、と半泣きになりながら、翼が足首を抱えるように押さえた。
「ッ、失礼いたしますっ」
スッ、と階段に膝をついた真鍋が、翼をお姫様抱っこでかかえ上げる。
「あー、ずるい」
「馬鹿なことを言っていないで、夏原先生、救急車!」
「は?」
「だから、救急車を呼んで下さい」
軽々と翼を抱いてフロアに戻った真鍋が、そのまま幹部室の方までスタスタと歩いていく。
「あの、能貴?救急車って…」
おいおい、と苦笑しながら、夏原が真鍋たちを追う。
「何をなさっているのですかっ、夏原先生、早く…」
「あの…真鍋さん?」
「まぁまぁ、能貴、ちょっと落ち着こうか」
アセアセと1人焦っている真鍋の腕の中で翼が困惑し、追いついた夏原が真鍋の肩をガシッと掴んだ。
「これが落ち着いてなどっ。私のせいで、会長の1番大切になされている翼さんにお怪我をっ…」
「うんうん、わかるよー。分かるけど、多分ちょっとした打撲と捻挫辺りだと思うからな?」
落っこちるときに捻ったんでしょ?と首を傾げる夏原に、翼がコクコクと頷く。
「だから救急車はさすがに大袈裟、ね?」
「いいえっ!もし万が一、落ちた際に頭でもお打ちになられていたら…」
「いや、打ってないですから…」
「ですが万が一、ヒビや骨折など…」
パンッ!
「だから落ち着け、能貴」
不意に、真鍋の目の前で両手をあわせて鋭い顔をした夏原に、真鍋がハッと正気を取り戻した。
「ッ…失礼いたしました」
スゥッ、と普段のクールで冷たい無表情に戻った真鍋が、ゆったりと歩みを変え、幹部室の前まで辿り着く。
「夏原先生、開けて下さい」
「はいはい」
ガチャリと夏原にドアを開けさせた真鍋が、室内に翼を運び、ソファの上にそっとその身体を下ろした。
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