アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
リクエスト⑧ 鬼の撹乱II 2
-
「クスクス。さっきの抓りで、おまえが図体は30代でも、出せる力は5歳児並みだと分かったからな」
「な、何…」
「大人をなめると、そっちこそ痛い目を見るって教えてやらなきゃなぁ」
「ッ…」
ジリ、ジリ、と距離を詰めて来る夏原に何を感じたか、真鍋がジリジリと同じだけ後退していく。
「ねぇ?能貴。これ、定規って言って、線を引く道具だよ?」
「しっています、それくらい」
「そうだよね。じゃぁ、こんなもので人を叩いてはいけません、って、学校で習わなかった?」
タンッ、と目の前まで距離を縮めた夏原が、トンッと背が壁につき、退路のなくなった真鍋の手の中の定規を、ぎゅっと握りしめてニコリと笑った。
「ッ…」
綺麗で鮮やかなのだけれど、どこか底知れない夏原の笑みに、真鍋がパッと定規の反対側を手放す。
「おっと。逃がさないよ」
「ッー!離してっ…」
「や、だ、ね」
「このおじさんっ…」
ゲシッと繰り出される蹴りをものともせずに、夏原がそれはそれは妖艶に微笑んだ。
「悪い子には、お仕置きね」
「ッ…」
びく、と肩を震わせた真鍋の目が、怯えに歪む……わけがなく。
「あ、っと、けいたいでんわ?」
どうやらマナーモードになっていたらしいスマホが、スーツの内ポケットで震えたらしく、それに驚いての反応だった。
「チッ…」
夏原から、らしくない凶悪な舌打ちが落ちる。
真鍋はその隙にスルリと夏原の腕を振りほどき、スマホを取り出した。
「あの」
「何」
「これ、なんて読みますか」
真鍋が、ぎゅっと唇を噛んで、悔しそうに夏原に向かってスマホの画面を突き出す。
「あぁ…」
見た目が大人だから忘れていたが、今の真鍋は5歳児だ。漢字が読めないらしい。
「って、あぁっ?まずい…」
「だから、これは何と読み…」
「火宮会長」
「ひみやかいちょう?」
なんで鳥の名前が…と首を傾げる真鍋に、夏原は笑いつつ、焦りつつ、やっぱり笑ってしまった。
「あっはは。会長って、鳥じゃないよ。悔しいけど能貴の1番大事な人。だけど今出たら…」
駄目、と言う前に、大事な人なら、と真鍋が急いで通話ボタンを押してしまった。
「待ったー!」
「もしもし?まなべです」
「………」
「え?まなべよしたかです。ひみやかいちょうさん?」
「あちゃー」
遅かった、と頭を抱える夏原が、チラリと真鍋を窺う。
「はい。なつはら先生?ですか」
「うわ、俺死んだ。終わった」
「このおじさんのことですか?」
火宮の声は聞こえないものの、真鍋の受け答えから、どんな会話がなされているのかは簡単に想像できる。
「はい、分かりました。かわります。おじさん」
ズイッと突き出されたスマホを見て、さすがの夏原も、ピクピクと顔を引きつらせ、不恰好な愛想笑いを浮かべていた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
58 / 233